年齢を重ねていく内に、気にならなかった「コト」が気になるようになりました。ふと見上げた時に感じる空の青さ、ハラハラと歩道に舞い散る落ち葉の美しさ……日常にありふれる当たり前な景色が、何時の頃からか心を動かす景色に変り始めています。
思えば、盛んな年頃には皆無だった感覚。「老いたのか？」多くの方が、それを心の弱りと感じるようです。でも、それは間違いだと思います。弱くなったのではなく熟したのです。歳月を経た記憶が熟し、日々のひとコマにも予想外な感情を湧き起すのかも知れない……最近はそう感じています。
衰えと反比例するように、研ぎ澄まされていく五感の記憶と感受性。豊かさは、すでにあなたの心に在ります。耳を傾け呼び起こしてみて下さい。わずかな記憶から甦る満ち足りた時間。水の流れは、止ることなく新たな記憶を呼び覚まし続けます。

中本 賢