D51ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)
D51ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)

東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお送りします。毎夜22:00~24:00の「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定で、後藤雅洋が執筆したコラムとともにジャズの魅力をお伝えします。

放送スタイルタイムテーブル参照

備考毎月1日に更新

歌 入/無混在

テンポオール

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  • 時刻
  • 楽曲名
  • アーティスト名
    • 23:40:00
    • Transition
    • John Coltrane
    • 23:55:26
    • Dear Lord
    • John Coltrane

月曜日 22:00~

ゲイリー・バートン『アローン・アット・ラスト』(Atlantic)

「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」 第105回
ゲイリー・バートン特集(再放送)


1967年に録音されたゲイリー・バートンのアルバム『ダスター』(RCA)は、60年代ジャズシーンに大きな衝撃を与えました。今ではごく普通のジャズとして聴けるこの演奏も、当時のジャズファンはラリー・コリエルのギター演奏にうかがえるロックの影響を声高に語り合ったものです。面白いことに、このアルバムはジャズ喫茶とロック喫茶の両方でかかる数少ないアルバムでした。
ロック寄りのミュージシャンというゲイリー・バートンのイメージが大きく変ったのが、1971年に録音されたアルバム『アローン・アット・ラスト』(Atlantic)です。ヴァイブ・ソロという極めて珍しいフォーマットによる、それまでのジャズには無い新鮮な響きをファンは大歓迎しました。「いーぐる」でも、アナログ盤が擦り切れるほどリクエストがあったものです。もちろん内容も素晴らしく、バートンの代表作に挙げられる名盤です。
そんなバートン像がまた大きく変ったのが、1972年にリリースされたヴァイオリン奏者ステファン・グラッペリとの共演作『グランド・エンカウンター(邦題・パリのめぐり逢い)』(Atlantic)でした。ジャンゴ・ラインハルトとも共演したフランス・ジャズ界の重鎮を向こうに回し、自在にマレットを操るバートンの音楽性の幅広さに私たちは驚かされたのです。
そして録音年月日を見てファンは再び驚きました。なんと、このアルバムはバートンがままだロックの影響圏にいると思われていた1969年に録音されていたのです。
しかしなんと言ってもジャズファンの間でバートンの名声が確立したのは、一連のチック・コリアとの共演作でしょう。ピアノとヴァイブのデュオという極めて斬新な組み合わせから、思いもかけない素晴らしい世界が展開されたのです。『チック・コリア・アンド・ゲイリー・バートン・イン・コンサート』(ECM)は、ライヴならではのスリリングな展開が聴き所。名演にして名盤です。
今をときめく大スター、パット・メセニーはゲイリー・バートンに見出されジャズシーンにデビューしました。1989年に録音された『リユニオン』(GRP)は、師弟の再会セッションとも言うべきアルバムで、バートンはメセニーをフィーチャーし脇に回った印象がありますが、息の合った演奏は実に心地よい。
バートンが生粋のジャズマンであることを改めて感じさせたのが1996年に録音された『ディパーチャー』(Concord)です。マイルスが影響を受けたというジャズピアニスト、アーマッド・ジャマルの名演で有名な《ポインシアーナ》を、バートンは淡々としかし心を込めて演奏しています。美しい曲想を殺すことなく自らの音楽性を表現している。こうした演奏は、ジャズという音楽のエッセンスを身に付けたミュージシャンだからこそ出来るワザなのです。
そして彼がジャズ・ヴァイブの伝統に連なっていることを示したのが、2000年に録音された『グレイト・ヴァイブス~ハンプ・レッド・バグス・カルに捧ぐ』(Concord)です。ライオネル・ハンプトン、レッド・ノーヴォ、ミルト・ジャクソン、カル・ジェイダーといったヴァイブ奏者たちにちなんだ名曲を取り上げ、先人たちに敬意を表しています。今回はミルト・ジャクソンの曲《バグス・グルーヴ》と、レッド・ノーヴォの演奏で知られた《ムーヴ》を収録いたしました。

【掲載アルバム】
ゲイリー・バートン『アローン・アット・ラスト』(Atlantic)
『チック・コリア・アンド・ゲイリー・バートン・イン・コンサート』(ECM)
ゲイリー・バートン『ディパーチャー』(Concord)

月曜日 22:00~ 2時間番組

火曜日 22:00~

ジョン・コルトレーン『至上の愛』(Impulse)

「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」 第30回
ジョン・コルトレーン特集その3~後期コルトレーン(再放送)


1960年代は、今では考えられないほどコルトレーンの存在が大きかった時代だ。ジャズファンは、彼の新譜がどうなるか固唾を呑んで見守っていた。それはコルトレーンの音楽が、人種差別反対闘争やベトナム反戦運動によって揺れ動く当時のアメリカの社会状況と歩調をあわせるかのようにして、過激さを増していったことと無関係ではなかった。
インパルス・レーベル移籍第一弾『アフリカ・ブラス』に収録された《グリーンスリーヴス》は、嵐の前の静けさを思わせる穏やかな曲だが、その中にも50年代のコルトレーンには見られなかった毅然とした姿勢が窺える。
1961年、コルトレーンはエリック・ドルフィーと歴史的クインテットを結成するが、当時発売されたアルバムからは、さほどドルフィーの存在感は強く感じられなかった。しかしコルトレーンの死後発表された演奏には、むしろドルフィーに煽られているようなコルトレーンの姿が記録されている。つまり、ドルフィーとの共演は当時想像されていた以上の影響をコルトレーンに与えていたのだ。実際『ライヴ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード』におけるコルトレーンは、ドルフィーを意識した非常に密度の高い演奏を展開している。
そしてその事実を裏付けるかのように、ドルフィーとの共演体験を経てからのコルトレーンの演奏は先鋭度を増していく。それを象徴するのが、1963年に吹き込まれた『セルフレスネス・フューチャリング“マイ・フェヴァリット・シングス”』の《マイ・フェヴァリット・シングス》である。アトランティック時代にも同じ曲を吹き込んでいるが、とうてい同一曲目とは思えないほどテンポも速く、躍動感と迫力に満ちた音楽に変貌している。
ドルフィーとのクインテットを解消したコルトレーンは、ピアノのマッコイ・タイナー、ドラムスのエルヴィン・ジョーンズ、そしてベースのジミー・ギャリソンを従えた「コルトレーン・カルテット」による傑作を次々に発表して行くが、『コルトレーン・ライヴ・アット・バードランド』は彼らの緊密な関係が生み出したライヴの傑作だ。
1964年、コルトレーンは自らの音楽の集大成とも言うべき『至上の愛』を発表する。このアルバムはアナログA、B面にまたがる大作で、従来のジャズの概念を突き破る作品として発売当時大きな話題を呼んだ。内容は《承認》《決意》《追及》《賛美》という、およそジャズには似つかわしくない宗教的イメージを喚起させるタイトルが付けられた緻密な構成の組曲で、コルトレーンの音楽観が従来のジャズマンの発想からはずいぶん異質な領域にまで踏み込んだことが明らかになった。
そのためか、このアルバムはジャズマンのみならずロック・ミュージシャンにも多大な影響を与えることになる。ともあれ、60年代のジャズ喫茶では、このアルバムがかからない日は無いと言われるまでヒットしたものだった。今聴けばかなり「重い」内容なのだが、こういうものを受け入れる社会状況が当時はあったということなのだろう。
晩年のコルトレーンは一作ごとに過激さを増し、あたかも求道者のような姿勢で演奏に取り組むようになっていた。『トランジション』は、そうしたコルトレーンの最後の傑作とも言ってよい。タイトル曲《トランジション》では、彼の突き詰めた思いが辛うじて「音楽」の枠内で表現されているが、以後のアルバムには、まさに彼の「絶叫」がそのまま楽器から迸るような壮絶な演奏が残されている。

【掲載アルバム】
ジョン・コルトレーン『至上の愛』(Impulse)
ジョン・コルトレーン『ライヴ・アット・ヴィレッジ・ヴァンガード』(Impulse)
ジョン・コルトレーン『セルフレスネス~フューチャリング“マイ・フェヴァリット・シングス”』(Impulse)

火曜日 22:00~ 2時間番組

水曜日 22:00~

ドナルド・バード『バード・イン・ハンド』(Blue Note)

「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」 第43回
ブルーノート特集 第2回 「ジャズ喫茶でよくかかるブルーノート裏名盤」(再放送)


ジャズ喫茶でよくかかるブルーノート裏名盤というタイトルだが、「裏名盤」の意味をちょっとヒネってみた。試みに、アナログ時代のB面、つまり裏面がよくかかるアルバムばかりをピックアップしてみたのだ。そうしてみると、マニアの言ういわゆる裏名盤、要するに知る人ぞ知る好盤と見事に一致するのである。
これは理由のないことではない。アナログ時代はA面の最初に一番派手というかキャッチーな曲、たとえば《モーニン》などを入れ、B面には、ちょっと地味だけれどミュージシャンのホンネが出た演奏を入れるという傾向があったからだ。マニアの巣窟、ジャズ喫茶では、思いのほかB面の登場回数が多いのもそんなところに原因があるのかもしれない。
ドナルド・バードもジャズ喫茶での登場回数が多いミュージシャンだが、このアルバムはいつものコンビ、バリトン・サックスのペッパー・アダムスの他に、テナー奏者チャーリー・ラウズが起用されている。ウオルター・デイヴィスの哀愁を帯びたピアノも良く、マイナー調の曲想が印象的。
ジャッキー・マクリーンのブルーノートB面名盤は『ジャッキーズ・バッグ』『デイモンズ・ダンス』が有名だが、マクリーン特集でご紹介したばかりなので、今回は『ブルースニク』を聴いていただきます。フレディ・ハバードとの2管だが、タイトルどおりブルージーな感覚にあふれた好演だ。このアルバムなどもA面の印象だけではあまり購買意欲が湧かないかもしれないが、裏に聴き所があったのだ。それにしても、ブルーノート、マクリーンは裏に宝が眠っている。ご参考までに挙げておけば、『スイング・スワング・スインギン』などはA、B両面とも良い演奏だ。
ケニー・バレルの『ミッドナイト・ブルー』自体はむしろ表名盤と言ってよいぐらいの知名度があるが、CD時代はさておき、昔はA面ばかりが有名だった。だが、このアルバムの聴き所はむしろB面で、メジャー・ホーリーのベースに導かれて登場するスタンレイ・タレンタインのドス黒いテナーが迫力満点。
その名も『クリフ・ジョーダン』とシンプルなネーミングのこのアルバムの聴き所は、トランペットにリー・モーガン、アルトはジョン・ジェンキンス、そしてトロンボーンにはカーティス・フラー、そしてジョーダンのテナーという豪華な4管が醸し出す厚みのあるアンサンブルだ。くすんだ音色が持ち味のジョーダンに似合った、黄昏色の曲想がいかにもハードバップ。
ハンク・モブレイの『アナザー・ワークアウト』は未発表セッションだが、面白いことに、これも最初に出たアナログ盤B面1曲目に収録された《ハンクス・アザーソウル》が実に良い。ジミー・スミスは山のようにブルーノートにアルバムを残しているが、これはスタンレイ・タレンタイン、ケニー・バレルをサイドに迎えたセッションで、バレルの『ミッドナイト・ブルー』にオルガンが加わったと見ることも出来る。だとすれば、これもまたタレンタインの黒さが聴き所で、彼の作曲した《マイナー・チャント》が気分。
ボビー・ハッチャーソンの『ハプニングス』は昔からB面が有名で、それはもちろんハンコックの名曲《処女航海》が、ハンコックのリーダー作より曲の良さを生かしているのではないかと言われてきたからだ。確かにハッチャーソンのヴァイブとハンコックのピアノが生み出すクールなサウンドは、斬新なこの曲のイメージにピッタリだ。

【掲載アルバム】
ドナルド・バード『バード・イン・ハンド』(Blue Note)
ジャッキー・マクリーン『ブルースニク』(Blue Note)
クリフ・ジョーダン『クリフ・ジョーダン』(Blue Note)

水曜日 22:00~ 2時間番組

木曜日 22:00~

アート・ペッパー『サーフ・ライド』(Savoy)

「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」 第58回
『ジャズ・ジャイアンツ、これだけ聴けば大丈夫』 その5 アート・ペッパー(再放送)


おそらく、もっとも日本人好みのミュージシャンはアート・ペッパーではなかろうか。独特の哀感が込められた彼のアルトサウンドは、60年代ジャズ喫茶で多くのファンを獲得した。1970年代、ほとんど事前の告知も無くサイドマンとして来日したとき、ファンは暖かい声援で彼を迎えた。麻薬中毒の噂が絶えなかったペッパーは、当時半ば引退状態だと思われていたが、昔からの熱心なファンは彼の存在を忘れてはいなかったのだ。
『サーフ・ライド』(Savoy)は、典型的ウエストコーストの白人ミュージシャンであるペッパー初期の傑作で、確実なテクニックに裏付けられた快適な演奏は、ウエストコースト・ジャズの傑作として知られている。とりわけ、レスター・ヤング作曲の《ティックル・トゥー》は軽やかな名演。
『マーティ・ペイチ・カルテット・フィーチャリング・アート・ペッパー』『アート・ペッパー・カルテット』の2枚は、ペッパー初期の名盤にもかかわらず、共にタンパというマイナーレーベルに録音されていたため、かつては非常に入手が難しかった。《あなたと夜と音楽と》《ベサメ・ムーチョ》など、よく知られた名曲がペッパーならでは深い情感を湛えた演奏で聴くことが出来る。
ウエストコースト・ジャズのもう一人のスター、トランペットのチェット・ベイカーと共演した『プレイボーイズ』(Pacific Jazz)は、アンサンブルの妙が聴き所であるウエストコースト・ジャズの名盤として知られている。3管テーマから各自のソロへの転換が実に滑らか。
50年代のペッパーには名盤が多いのだが、マイナーな会社が多かったため、昔はなかなか聴くことができなかった。イントロ原盤の『モダンアート』や、アラディン原盤の『ジ・アート・オブ・ペッパー』は、90年代になってようやく全容が知られるようになった。派手なところはないが、聴くほどに味わいのあるマニア好みの演奏である。《ブルース・イン》の抑えた表情、《ホリディ・フライト》の楽器の鳴りなど、彼が第一級のアルト奏者であることを示した名演だ。
一方、もう少し大きな会社であるコンテンポラリーの『ミーツ・ザ・リズム・セクション』は、昔からモダンジャズ入門アルバムとして広く知られ、とりわけ録音が優れていたことからオーディオマニアがこぞって買い求めていた。マイルス・コンボのサイドマンであるレッド・ガーランド、ポール・チェンバース、フィリー・ジョー・ジョーンズという当代一流の黒人ジャズマンを向こうに回し、一歩も引けをとらないペッパーは、もはやウエストコースト・ジャズの枠に収まらない大物の風格を備えている。
スタン・ケントン楽団出身のペッパーは、大編成との共演もお手のものだ。ウエストコーストの名手11人をバックに軽やかに吹きまくる『プラス・イレヴン』(Contemporary)は、明るいペッパーの代表作。
麻薬に溺れたペッパーは70年代に奇跡の復活を遂げる。その第一弾が『リヴィング・リジェンド』(Contemporary)だ。かつての繊細な演奏に馴染んでいたファンは、コルトレーンを思わせるようなフリークトーンを多用するペッパーの変容に驚かされた。復帰後のペッパーはエネルギッシュな活動を続けたが、黒人アルト奏者の大ベテラン、ソニー・スティットと共演したのが『グルーヴィン・ハイ』(Atlas)だ。大物同士の顔合わせながら息はぴったりと合っている。
比較的力強い演奏が多くなった晩年の作品の中で、ストリングスと共演した『ウインター・ムーン』(Galaxy)は、昔ながらの情感あふれたペッパーが聴ける。しみじみとした味わいはやはり年輪のなせる業だ。

【掲載アルバム】
アート・ペッパー『サーフ・ライド』(Savoy)
『マーティ・ペイチ・カルテット・フィーチャリング・アート・ペッパー』(Tampa)
チェット・ベイカー&アート・ペッパー『プレイボーイズ』(Pacific Jazz)

木曜日 22:00~ 2時間番組

金曜日 22:00~

『セロニアス・モンク・ウイズ・ジョン・コルトレーン』(Jazzland)

「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」 第84回
「サイドマン聴きシリーズ」 その2・ジョン・コルトレーンその2(再放送)


同い年の大物、マイルス・デイヴィスに比べて遅咲きのコルトレーンは、1950年代に多くのアルバムにサイドマンとして参加しています。時代が時代だけに、そのほとんどがハーバップ・アルバムなので、ジャズを聴き始めたばかりの方でも耳なじみが良いのではないでしょうか。ですから、ある意味では「コルトレーン入門編」としてはかっこうのセレクションでもあるのです。
1枚目はいわずと知れたマイルス・デイヴィスの大傑作、いわゆる「ing4部作」の中でももっとも出来がよいのではないかと言われている『リラクシン』(Prestige)です。やはり御大マイルスの方が役者が上なのですが、少々荒削りながらエネルギッシュに迫るコルトレーンの演奏には新人らしい溌剌とした気迫が感じられます。
コルトレーンはマイルス・バンドの一員としてジャズファンの注目を集めましたが、麻薬常習でバンドを首になってしまいます。また、この頃はいまひとつ演奏にまとまりを欠くこともあったのですが、それはまだ音楽理論に精通していないからでした。そんなコルトレーンに救いの手を差し伸べたのがセロニアス・モンクです。
コルトレーンはモンクのバンドで音楽理論をみっちり叩き込まれ、今まで以上に自信を持って演奏に望むことができるようになったのです。この時期のモンク、コルトレーン・カルテット『セロニアス・モンク・ウイズ・ジョン・コルトレーン』(Jazzland)には、複雑なフレーズをやすやすと吹きこなすコルトレーンの雄姿が記録されています。
ハードバップ・テナーの第一人者、ジョニー・グリフィンを筆頭に、コルトレーン、ハンク・モブレイの3人のテナー奏者が妙技の限りを尽くす『ア・ブローイング・セッション』(Blue Note)は、ハードバップ・ファンなら一聴しただけで購入を決定することでしょう。メンバーも素晴らしく、トランペットはジャズ・メッセンジャーズで名高いリー・モーガン、そしてピアノはマイルス・バンドのサイドも務めたウイントン・ケリーとくれば、もう言うことはありません。
ジャズでは珍しい楽器、チューバを吹くレイ・ドレイパーの『ザ・レイ・ドレイパー・クインテット』(New Jazz)は選曲もユニークで、有名なシャンソン《パリの空の下》が取りあげられています。途中でクラシックの名曲が挿入されるのも面白い趣向。音域が低くいささか鈍重なチューバと、軽やかなコルトレーンのサウンドの対比が聴き所です。
マイルス・バンドの名脇役、レッド・ガーランドをリーダーに据えた『ソウル・ジャンクション』(Prestige)は、ドナルド・バードの輝かしいトランペットとコルトレーンの力強いテナー・サウンドが実にいいアンサンブルを醸し出しています。まさに典型的ハードバップ2管サウンドですね。
少々異色なのがアレンジャー、ジョージ・ラッセルの意欲作『ニュー・ヨーク、N.Y.』(Decca)です。冒頭に繰り広げられるラップの元祖みたいなナレーションがニュー・ヨークの風景を勢い良く活写して始まる華麗なサウンドは、アート・ファーマーのトランペットにハル・マクシックのアルト、そしてコルトレーンにボブ・ブルック・マイヤーのトロンボーンが加わった豪華な4管編成。ピアノにはビル・エヴァンスが起用されています。
最後は名盤の誉れ高い『ケニー・バレル・アンド・ジョン・コルトレーン』(New Jazz)です。アーシーなバレルのギターに乗って、コルトレーンが小気味良くドライヴしていきます。まさに名演にして名盤ですね。

【掲載アルバム】
『セロニアス・モンク・ウイズ・ジョン・コルトレーン』(Jazzland)
ジョニー・グリフィン『ア・ブローイング・セッション』(Blue Note)
『ケニー・バレル・アンド・ジョン・コルトレーン』(New Jazz)

金曜日 22:00~ 2時間番組

[Recommend!] 土・日曜日 22:00~

レイクシア・ベンジャミン『Phoenix Reimagined (Live) 』(ropeadope)

「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」 第236回
新譜紹介 第101回


パリ・オリンピックで連日女性アスリートたちの活躍が報道されましたが、ジャズ・シーンでも女性ミュージシャンの活動が一段と注目されています。女性アルト・サックス奏者レイクシア・ベンジャミンの新作『Phoenix Reimagined (Live)』 (ropeadope)は、前作『Phoenix』をテーマとしたスタジオ・ライヴ・アルバムです。
イントロのミュージシャン紹介など、晩年のコルトレーン・バンドで活躍したファラオ・サンダースの人気アルバム『Live!』を髣髴させる勢いの良さ。そしてギターのジョン・スコフィールド、トランペットのランディ・ブレッカーら大物ミュージシャンらがサイドに参加する気合の入れようは、コルトレーン・ミュージックを今に伝えようとするルクレシアの意気にベテランが賛同したからでしょう。とりわけコルトレーン・ミュージックの代名詞的楽曲《マイ・フェイヴァリット・シングス》の熱演など、聴きどころ満載です。
ところで、アルトなので音色こそ違うのですが、UKの女性テナー・サックス奏者、ヌバイア・ガルシアのメロディ感覚に似たところが散見されるところが興味深いですね。ともあれ、一聴して、「あ、レイクシアだ」とわかる個性的サウンド、フレーズを持っているのが彼女の強みです。
先日、ブラジルのピアノ奏者アマーロ・フレイタスのソロ公演を恵比寿ブルーノート・プレイスで見たのですが、特別の加工を施したプリペアド・ピアノを使用した演奏は昨年立川で行われた公演でのポップな演奏とはずいぶんイメージが異なっていました。
今回収録した彼のアルバム『Y’ Y』 (Psychic Hotline)はそのソロ・ライヴの印象を再確認させる内容で、ブラジルの自然風土にインスパイアーされた、静謐でありながらイマジネーションを掻き立てられる演奏は神秘的ともいえるもので、思わず同じブラジルの先達エグベルト・ジスモンティの音楽を思い起こさせました。彼の持っている音楽的引き出しの多さに驚かせられますね。
ベテラン、ジャズ・ファンから支持されているクリス・クロス・レーベルの看板ピアニスト、ミーシャ・ツィガノフの新作『Painter Of Dreams』 (Criss Cross)は、トランぺット、アレックス・シピアジン、アルト・サックス、クリス・ポッターら実力メンバーを擁した力強い演奏が素晴らしいですね。とりわけポッターの熱演は聴き応え十分。
今年2月、ビルボード東京でミシェル・ンデゲオチェロの来日公演を見て、バンドとしての密度、音楽性の高さに驚嘆し、『オムニ・コード・リアル・ブック』(ブルーノート)によるグラミー賞受賞も遅きに失したのではと思ったものでした。
そのブルーノート2作目『No More Water』(Blue Note)は、「怒れる黒人作家」ジェームス・ボールドウィン生誕100周年を記念したコンセプト・アルバムで、さまざまな社会問題に鋭いメスを入れた作品ですが、そこは名プロデューサーでもあるンデゲオチェロ、音楽としての完成度も当然極めて高く、聴いた満足感も絶大なのです。
新進レイクシア・ベンジャミン、大御所ミシェル・ンデゲオチェロに続いて今回ご紹介する3人目の女性ミュージシャンの作品は、アヴァンギャルド・シーンで活躍するギター奏者兼コンポーザー、メアリー・ハルヴァーソンの新作『Cloudward』(Nonesuch)です。随所に前衛的なハルヴァーソンのギターが登場するのですが、トランペット、トロンボーン、ヴァイブラフォンらを従えたアマリリス・セクステットによる演奏はハルヴァーソンの作曲の才も手伝い、音楽的に見事なバランス感覚を示しているのですね。彼女に対する過激イメージを覆すかのような素敵な1枚です。
ウルトラ・ハイテク・ドラマー、マーク・ジュリアナの新作『Mark』 (Core Port)は、タイトルが暗示するようにやりたいことを彼一人で表現した、文字通り音の「私小説」ともいえるようなアルバムです。それにしても、随所に顔を出す「ちょっと変わった日本趣味的」なメロディはいったいどこから来ているのでしょうか。気になるところですね。
秩父地方を拠点として活動する多彩なギタリスト笹久保伸と、現代ブラジルを代表するドラマー、ガブリエル・ブルースによるデュオ・アルバム『Catharsis』 (Rings)は、切れ味鋭いブルースのドラミングに乗って、笹久保のエスニックでどこか懐かしさを感じさせるギターが心地よいチャーミングな作品です。

【掲載アルバム】
レイクシア・ベンジャミン『Phoenix Reimagined (Live) 』(ropeadope)
ミシェル・ンデゲオチェロ『No More Water』(Blue Note)
メアリー・ハルヴァーソン『Cloudward』(Nonesuch)

土・日曜日 22:00~ 2時間番組

インフォメーション

ジャズ喫茶リアル・ヒストリー/後藤雅洋
発売中/河出書房新社/ISBN 978-4-309-27067-8

ジャズ喫茶リアル・ヒストリー/後藤雅洋
発売中/河出書房新社/ISBN 978-4-309-27067-8

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