
ドナルド・バード『オフ・トゥ・ザ・レイシズ』(Blue Note)
東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお送りします。毎夜22:00~24:00の「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定で、後藤雅洋が執筆したコラムとともにジャズの魅力をお伝えします。
放送スタイルタイムテーブル参照
備考毎月1日に更新
歌 入/無混在
テンポオール
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日時指定
ドナルド・バード『オフ・トゥ・ザ・レイシズ』(Blue Note)
「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」 第112回
ドナルド・バード特集(再放送)
ドナルド・バードは典型的なクリフォード・ブラウン直系トランペッターです。その明るく輝かしい音色はまさにブラウニーゆずり。1932年生まれのバードは1930年生まれのブラウニーとほぼ同世代。惜しくも1955年に交通事故のため亡くなってしまったブラウニーの遺志を継ぐようにしてジャズ・シーンにデビューしたバードは、ハードバップの名トランペッターとして幾多の傑作を残しました。
最初のアルバム『ハーフ・ノートのドナルド・バードVol.1』(Blue Note)はルース・ブラウン(後に、ブルーノート・プロデューサー、アルフレッド・ライオンの奥さんとなる人)の名司会によって紹介される、バリトン・サックスのペッパー・アダムスと組んだ新2管クインテットのお披露目とも言うべき名演。聴きどころは、まずはデューク・ピアソンの書いた名曲《マイ・ガール・シャール》を小気味良く吹ききるバードのトランペットの切れ味です。
次いで注目したいのは、高音域を担当するトランペットからは一番音域の離れた超低音楽器、バリトン・サックスから信じられない切れ味のフレーズを発射するペッパー・アダムスの迫力です。音の魅力だけで聴かせてしまうワザは彼ならでは。
2枚目『バード・イン・ハンド』(Blue Note)は、そこにテナー・サックスのチャーリー・ラウズが加わっていた時期の分厚い3管セクステットによる典型的ハードバップ。マイナー調の曲想とラウズの持ち味がジャスト・フィットですね。ちょっと元気の良い演奏が続いたので、3枚目のアルバムはバードの初期の傑作、幻の名盤と言われたトランジションの『バード・ブロウズ・オン・ビーコンヒル』です。ワンホーンでじっくりとフレーズを歌い上げるほのぼの調のバードもまたいいもの。後に博士号までとったバードの奥ゆかしい面が現れた傑作でしょう。
さて一転して3枚目『フエゴ』(Blue Note)は、かつて一世を風靡したファンキー・ジャズの名盤。マイナー曲想を吹かせたら天下一品、ジャッキー・マクリーンがこのアルバムのアーシーな味わいに一役買っています。とりわけバード作になる《エーメン》はそのゴスペル調の曲想によって60年代ジャズ喫茶で大ヒットしました。
バードとマクリーンの相性の良さを証明するのが『オフ・トゥ・ザ・レイシズ』(Blue Note)でしょう。前出のアルバム『バード・イン・ハンド』のチャーリー・ラウズの代わりにマクリーンが、そしてピアノがウォルター・デイヴィスから名手ウィントン・ケリーとなっているところが効いています。
というか、アップテンポで演奏された収録曲の目玉《恋人よ我に帰れ》の張り切りぶりは、やはりマクリーンならではのもの。私などもその日の気分のよって二つのアルバム、それぞれの持ち味を楽しんでいます。
さて、最後にご紹介するのは、昨年オリジナル・ジャケット・デザインでCD化されたブルーノート未発表シリーズから、1961年録音の『チャント』(Blue Note)です。一見一昔前のフュージョンっぽいジャケットなので素通りしちゃっている方もあるかと思いますが、いつも言うとおり、「なんでこれがお蔵なの?」という出来の良さ。ソニー・ロリンズの演奏で知られた《俺は老カウボーイ》(アルバム『ウェイ・アウト・ウェスト』収録)が採り上げられているのも珍しい。また、ピアノがハービー・ハンコックというもの聴き所でしょう。
【掲載アルバム】
ドナルド・バード『ハーフ・ノートのドナルド・バードVol.1』(Blue Note)
ドナルド・バード『オフ・トゥ・ザ・レイシズ』(Blue Note)
ドナルドバード『チャント』(Blue Note)
月曜日 22:00~ 2時間番組
アート・ペッパー『ミーツ・ザ・リズム・セクション』(Contemporary)
「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」 第38回
『ジャズ・レーベル完全入門』~コンテンポラリー編(再放送)
コンテンポラリー・レーベルの特徴は、「サウンド」という言葉で言い表わすことが出来るだろう。まず、会社が西海岸のロスにあるので、1950年代当時隆盛を極めていたウエスト・コースト・ジャズ特有の軽快なサウンドを捉えているということ。そして、録音の音色という意味でもこの会社は独自性を持っている。
東海岸の代表的ジャズ・レーベル、ブルーノートの伝説的録音技師、ルディ・ヴァン・ゲルダーにも比肩される、ロイ・デュナンという名録音技師が録ったコンテンポラリー・サウンドは、独特の明快な軽やかさを持っている。つまりジャズ・スタイルのサウンドの特徴と、録音の音色の傾向が一致しているのだ。
最初の1枚は、名盤紹介に必ず出てくるアート・ペッパーの『ミーツ・ザ・リズム・セクション』から、おなじみの《ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ》。このアルバムは、録音のよさからオーディオファンが装置のチェックに使うことでも有名。そして次はこれも良く知られた名盤、ソニー・ロリンズの『ウエイ・アウト・ウエスト』。ブルーノート盤のゴリゴリした録音と比べてみると、同じ人が吹いているとは思えないほど明るく軽やかに聴こえるのがわかるだろう。
ウエスト・コースト・ジャズの職人アルト奏者、レニー・ニーハウスはちょっと馴染みが薄いかもしれないけれど、音楽監督として良くこの人の名が映画のクレジットに出てくる。有名なところでは、クリント・イーストウッド監督の映画『バード』で、チャーリー・パーカーの演奏をデジタル処理し、現代のミュージシャンと共演させるというアクロバット技を仕掛けたのがこの人だ。
第2次大戦後、進駐軍(占領軍のこと)として日本に来たこともあるハンプトン・ホースは、バド・パウエル直系のウエスト・コースト・ピアニスト。パウエル派ならではのノリの良いピアノには定評がある。
ジャズ雑誌の人気投票第1位、すなわちポール・ウイナーが3人集まった『ポール・ウイナーズ』は、バーニー・ケッセルのギターをレイ・ブラウンのベースとシェリー・マンのドラムが支えた、ウエストのスター・バンド。そのシェリー・マンがリーダーになったアルバム、『マイ・フェアー・レディ』は、ミュージカル・ナンバーをクラッシク畑でも活躍するピアニスト、アンドレ・プレヴィンに弾かせた名作。
コンテンポラリー・レーベルは80年代になっても活動し、オーソドックスなスタイルの傑作を残している。ロフト・シーンで知られたテナー奏者、チコ・フリーマンとウィントン・マルサリスの若手二人を、ベテラン、ヴァイヴ奏者、ボビー・ハッチャーソンが支えた『デスティニーズ・ダンス』は80年代の名盤だ。同じくウェザーリポートのドラマーとして知られたピーター・アースキンの初リーダー作『ピーター・アースキン』は、軽快なドラムソロのトラックに続く《E.S.P》が気持ちよい。ジョージ・ケイブルスのピアノは、現代的でありながら古きよき時代のフレイバーを感じさせるところが魅力だ。センチメンタルな味の《ブルー・ナイツ》は、なかなかの名曲。
再び50年代に戻り、知られざるベーシスト、カーティス・カウンスのリーダー作をご紹介しよう。フロントのトランペッター、ジャック・シェルドンの名前を知らずとも、聴けば納得の隠れ名盤だ。ベテラン、アルト奏者、ベニー・カーターの『スインギン・ザ・20s』は軽やかなアルトの音色が聴き所。これも録音の良さがカーターの魅力を引き出している。
そして最後は、70年代に吹き込まれたレイ・ブラウンの『サムシング・フォー・レスター』。ピアノ・トリオ・フォーマットでシダー・ウオルトンの演奏が光る。意外なことに、この編成でブラウンがリーダーになったのは初めてだとか。タイトルは、この録音の直後に心臓発作で亡くなってしまったコンテンポラリーのオーナー・プロデューサー、レスター・ケーニッヒに捧げたもの。
【掲載アルバム】
アート・ペッパー『ミーツ・ザ・リズム・セクション』(Contemporary)
ソニー・ロリンズ『ウエイ・アウト・ウエスト』(Contemporary)
『ポール・ウイナーズ』(Contemporary)
火曜日 22:00~ 2時間番組
チェット・ベイカー&アート・ペッパー『プレイボーイズ』(Pacific Jazz)
「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」 第50回
チェット・ベイカー特集 その3 「共演アルバム」(再放送)
3回にわたってお送りしたチェット・ベイカー特集、最後を飾るのは他のミュージシャンとの共演アルバムだ。チェット・ベイカーは個性的なトランペッターではあるが決して協調性に欠けることはなく、デビューしたウエストコースト・ミュージシャンたちとは言うまでもなく、第1回目にお聴きいただいた『チェット・ベイカー・イン・ニューヨーク』(Riverside)のように、黒人ジャズマンと渡り合ってもまったく違和感がない。
冒頭の『プレイボーイズ』(Pacific Jazz)はウエストコーストのもう一方の雄、アート・ペッパーとの双頭アルバム。テナーのフィル・アーソを加えた3管セクステットは、ウエストコースト・ジャズの典型ともいうべき、アンサンブルの心地よさと各人のソロが巧みに融和した傑作だ。名曲《フォー・マイナーズ・オンリー》の決定版が堪能できる。
2枚目のアルバム『ジェリー・マリガン・カルテット』(Pacific Jazz)もウエストコースト・ジャズの名を高めた名盤。チェット・ベイカーのトランペットとジェリー・マリガンのバリトン・サックスという意表を突く組み合わせに加え、50年代には珍しかったピアノレス・カルテットというフォーマットが話題を呼んだ。このアルバムも巧みなアレンジとソロの有機的な結びつきが聴き所だ。
1970年代のヒット・アルバム、ジム・ホールの『アランフェス協奏曲』(CTI)では、リーダー、ジム・ホールのソフトなギター・サウンドと、これまたメローな音色が特徴のアルト・サックス奏者、ポール・デスモンドに寄り添うようにトランペットを吹くチェットが聴ける。サイドマンではあるがまさにチェットは適役だ。タイトル曲が有名だが、アナログ時代A面に収録されていた《ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ》も名演。
タイトルでも明らかなように、『コニッツ・ミーツ・マリガン』(Pacific Jazz)では、チェットはマリガンのサイドマンという格好での登場なので、どうしても聴き所はリー・コニッツとジェリー・マリガンになってしまうが、コニッツのような硬質なプレイヤーとも共演できるところを知っていただきたいと思い、ご紹介した。地味だが聴き応えのある作品だ。
『シングス・ア・ソング・ウイズ・マリガン』(Pacific Jazz)も、伴奏者であるマリガンのお供のような形なので、どうしても耳は個性的なアニ―・ロスの歌声に行ってしまうが、時折現れるトランペットの音色がチェットらしさを感じさせる。ちなみにアニー・ロスはマンハッタン・トランスファーがお手本とした男女3人のヴォーカル・グループ、ランバート、ヘンドリクス、アンド、ロスの一員としても有名。
最後にご紹介するのはチェットと同じく白人ジャズマンの代表格、ビル・エヴァンスとの共演作、『チェット』(Riverside)である。アルバム・コンセプトやプロデュースの問題もあるのか、期待するような丁々発止の交換はないが、しっとりとした落ち着いた仕上がりになっている。
こうして聴いてみると、チェット・ベイカーは晩年の作品に見られるように、ちょっとしたニュアンスで深い表情を表現できると同時に、さまざまなタイプ、コンセプトの作品においても共演者たちと融合できる柔軟さを具えた、非常に懐の深いプレイヤーであることが実感できたのではないでしょうか。
【掲載アルバム】
チェット・ベイカー&アート・ペッパー『プレイボーイズ』(Pacific Jazz)
ジェリー・マリガン『ジェリー・マリガン・カルテット』(Pacific Jazz)
ジム・ホール『アランフェス協奏曲』(CTI)
水曜日 22:00~ 2時間番組
パット・メセニー『ウイチタ・フォールズ』(ECM)
「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」 第66回
『ジャズ・ジャイアンツ、これだけ聴けば大丈夫』 その13 パット・メセニー(再放送)
現在も第一線で活躍しているギタリスト、パット・メセニーは、1970年代ECMレーベルに吹き込んだ初リーダー作『ブライト・サイズ・ライフ』でファンに知られるようになった。このアルバムが出た当時は、従来のジャズギターの系譜に納まらない斬新なスターが登場したと、コアなファンの注目を浴びたものだった。ベースはなんとジャコ・パストゥリアスだったのだけど、まだ無名で誰も知らなかったのだから面白い。
そしてリーダー2作目の『ウオーターカラーズ』(ECM)で共演したピアノのライル・メイズとは、後に「パット・メセニー・グループ」を組むこととなる。これら初期の2作品はヨーロッパのレーベルから出たこともあって、メセニーがアメリカのミュージシャンだということはあまりファンに意識されていないようだった。それが変化したきっかけが、タイトルも『アメリカン・ガレージ』(ECM)というアルバムで、曲想もそれまでの北欧的で幻想的なものから一気にポップな明るいものへと変化している。
パット・メセニーとライル・メイズのコンビの最高傑作が『ウイチタ・フォールズ』(ECM)だろう。二人の才能が実にうまい具合に発揮されている。エレクトリック・ツールを駆使した想像力を喚起するサウンドは、今聴いてもまったく古さを感じさせない。
『トラヴェルズ』(ECM)は、1982年の夏から秋にかけてのパット・メセニー・グループの膨大なツアー記録から、メセニー自身がセレクトしたベスト・トラック集で、アルバム冒頭に収録された《アー・ユー・ゴーイング・ウイズ・ミー》はまさに名曲。そしてこれまでのメセニーのイメージを変えたのが『リジョイシング』(ECM)だ。ホレス・シルヴァーによる《ロンリー・ウーマン》を取り上げているが、これが素晴らしい。一音一音をじっくりと演奏するメセニーのギタリストとしての実力がはっきりと聴き取れる。サイドもいつものメンバーとは違い、メセニーが心を寄せるオーネット・コールマンのサイドを務めたチャーリー・へイデンにビリー・ヒギンスで、彼らの参加も表現に深みを与えている。
80年代、それまでのECMレーベルからゲフィン・レーベルに移籍したパット・メセニー・グループは一気にブラジル色を強めていく。『スティル・ライフ』(Geffen)はその第1弾で、ECM時代のクールなサウンドからいかにも南国の空気を感じさせるゆったりとしたものへと変わっている。
『クエスチョン・アンド・アンサー』(Geffen)はもともとレコーディングのつもりはなく、単にやりたいからやっただけのセッションがたまたまテープに録られており、思いのほか出来がいいので発売したといういわくつきのアルバム。メンバーもデイブ・ホランドのベースにロイ・へインズのドラムスという、いわば“純ジャズ”メンバーで、内容もまさに“ジャズギター”になっている。
『ザ・ロード・トゥ・ユー』(Geffen)はメセニー・グループの総決算的ライヴ記録で、冒頭の《ハヴ・ユー・ハード》が実にカッコいい。そしてメセニーが民族音楽的なテイストを取り入れたのが『シークレット・ストーリー』(Geffen)だ。冒頭のカンボジアのコーラスが聴き手を異次元に誘い込む。
『イマジナリイ・デイ』はワーナー・ブラザースに移籍してからのアルバムで10分に及ぶタイトル曲は、メセニー、ライル・メイズほか6名のミュージシャンが織り成すサウンドが聴き所。そして最後に収録した『ニュー・シャトゥカ』(ECM)はメセニーが多重録音を駆使して想像力に満ちた世界を作り上げた傑作だ。
【掲載アルバム】
パット・メセニー『ウイチタ・フォールズ』(ECM)
パット・メセニー『トラヴェルズ』(ECM)
パット・メセニー『リジョイシング』(ECM)
木曜日 22:00~ 2時間番組
『ソニー・ロリンズ・ウィズM.J.Q.』(Prestige)
「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」 第91回
「サイドマン聴きシリーズ」 その8・ケニー・ドリュー(再放送)
サイドマン聴きシリーズ、ピアニスト編はトミー・フラナガン、ウイントン・ケリーと、バド・パウエルの系譜に連なるミュージシャンをご紹介してきましたが、今回もパウエル派ピアニスト、ケニー・ドリューです。「名盤の影にトミフラあり」と言われたフラナガン、ソロでも個性を発揮するケリーに対し、ドリューの持ち味はどこにあるのでしょう。
バップ・ピアノをわかりやすく噛み砕いた典型的ハードバップ・ピアニスト、ケニー・ドリューは、幅広いタイプのジャズマンに対応できる柔軟性と、軽快でノリの良いリズム感が多くのファンから好かれる理由ではないでしょうか。そして興が乗ればフロントを煽りまくる小気味よさが彼の魅力を倍増させています。
冒頭ジョン・コルトレーンの『ブルー・トレーン』(Blue Note)は有無を言わせぬ名盤ですが、典型的3管ハードバップ・セッションをピシっとキメているのは裏方ドリューのワザ。名脇役のおかげでリー・モーガン、コルトレーン、そしてカーティス・フラーが心置きなく吹きまくれるのです。そして、ドリューならではの軽やかでスインギーなソロがアルバムに彩りを添えています。
かつてコルトレーンとともに2大テナーと歌われたソニー・ロリンズとも、ドリューは共演しています。タイトルは『ウィズM.J.Q』(Prestige)ですが、このアルバムは2つのセッションから成っており、もうひとつのセッションのサイドマンがドリューです。どちらの演奏も素晴らしいのですが、とりわけロリンズの歌心が心行くまで堪能できる《ウィズ・ア・ソング・イン・マイ・ハート》《中国行きのスローボート》が心地よい。軽やかな曲想にマッチしたドリューの明るさがジャストフィット。これは豪放さばかりが喧伝されるロリンズの、肩の力を抜いた「隠れ名盤」と言ってよいのではないでしょうか。
ドリューはテナーマンばかりではなく、ウエストコースト出身の黒人アルト奏者、ソニー・クリスのサイドマンを務めたこともあります。独特の味わいを持ったクリスのアルトがむせび泣く『ジャズU.S.A.』(Imperial)は、《柳よ泣いておくれ》《ジーズ・フーリッシュ・シングス》が名演。ドリューの出番はあまりありませんが、これはクリスを聴くトラックと言えるでしょう。
そして、満を持してドリュー節が全開するのがデクスター・ゴードン『モンマルトル・コレクションVol.1』(Black Lion)。名曲《ソニー・ムーン・フォー・トゥー》を取り上げ、共にヨーロッパに活動拠点を移したデックスとドリューが異国の地で燃えまくる。これは紛れも無い名演です。
デクスター・ゴードンはじめ60年代後半から70年代にかけ、ベテラン・ジャズマンのヨーロッパ移住が多くなりましたが、ブローテナーの第一人者、ジョニー・グリフィンもその一人。彼らの演奏を記録したヨーロッパ・レーベル「スティープル・チェース」は、いわゆる“70年代ハードバップ・リバイバル”の先駆け的レーベルです。グリフィンのアルバム『ブルース・フォー・ハーヴィー』(Steeple Chase)は、まさに記念碑的作品。
そしてご存知ジャッキー・マクリーンとも、もちろんドリューは共演しています。アルバム『ブルースニク』(Blue Note)のアナログ盤B面に収録されたセッションは、しみじみとした味わいの隠れ名演。最後にご紹介するのはちょっと異色、白人モダン・クラリネットの大物、バディ・デフランコの『ミスター・クラリネット』(Verve)。ドリューの万能選手振りが発揮された傑作です。
【掲載アルバム】
『ソニー・ロリンズ・ウィズM.J.Q.』(Prestige)
デクスター・ゴードン『モンマルトル・コレクションVol.1』(Black Lion)
ジョニー・グリフィン『ブルース・フォー・ハーヴィー』(Steeple Chase)
金曜日 22:00~ 2時間番組
Kenny Burrell 『Midnight Blue』 (Blue Note)
「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」 第243回
「ジャズ喫茶のジャズ」 第3回 : 「ジャズ喫茶好み、黒いグルーヴ」
ジャズは今や「世界音楽」と言ってもよい広がりを持っています。UKシーンの活発化ひとつとってみても、かつてのようにアメリカ人による“ブラック・ミュージック”という枠に収まり切れない幅広さが現代ジャズの特徴です。しかし1960年代から70年代にかけてのジャズ喫茶では、ジャズ=黒人音楽というイメージが幅を効かせていました。というわけで今回は当時のジャズ喫茶で好まれ、今でも一定の人気を保っているジャズにおける「黒っぽい演奏」にスポットを当てた選曲です。
初めにお断りしておけば、「黒っぽさ」というのは「イメージ」のことで、黒人音楽すべてに当てはまるわけではありません。早い話、本家ブラック・ピープル、アフリカン・ミュージックの中には、明るく軽快でむしろ「白っぽい」印象を受けるポップスも散見されます。一例を挙げれば、西アフリカのユッスー・ンドールやサリフ・ケイタの軽やかな歌声をお聴きになってみると良いでしょう。
ところで、なんとなく「黒さ」とセットで語られやすい「グルーヴ」という音楽形容詞についてもご説明しておいた方が良いでしょう。かんたんに言ってしまえば演奏が心地よくツボに嵌って進んでいく様子のことですが、ここで起きやすい誤解を避けたいと思います。それは私たちにとってわかりやすい行進曲のように、軽快にリズムに乗って行くような演奏ではなく、むしろ一定のリズム対してもたれ掛かるように粘った「ノリ」を「グルーヴしている」ということが多いようなのです。
典型的なのが冒頭に収録したケニー・バレルの有名盤『ミッドナイト・ブルー』(ブルーノート)からの《ウェイヴィー・グレイヴィー》でしょう。メジャー・ホリーのずっしりとしたベースに乗ってバレルの実にブルージーなギターが登場、そしてそれにわをかけたようなスタンリー・タレンタインのテナーが思いっきり黒っぽいフレーズを重ねます。聴きどころはそのまったりとした気分を煽るレイ・バレットのコンガですね。ここではドラムスはむしろ控えめ。
言ってみれば温泉の湯船に浸かっているようなゆったりとした快楽気分を居ながらにして堪能できるのが「黒いグルーヴ」なのです。そしてオルガン・サウンドもまたブラック・ミュージックならではの黒さに大きな役割を占めていますね。次の曲スタンリー・タレンタインのアルバム『ネヴァー・レット・ミー・ゴー』(ブルーノート)からの《トラブル》では、彼の奥さんシャーリー・スコットのこれまたブルージーなオルガンが気持ちよい。
そして音そのものがいぶし銀のテナー奏者、ティナ・ブルックスの隠れ名盤『トゥルー・ブルー』(ブルーノート)《グッド・オールド・ソウル》の聴きどころは、哀感たっぷりなメロディを思い入れを効かせて切々と歌い上げるティナ一世一代の名演でしょう。
オルガン・ジャズと言えば、ブルーノート・レコードのスター・プレイヤー、ジミー・スミスは欠かせません。彼の面白いところは、ピアノと違って音を延ばせるオルガンの特徴にあえて逆らい、あたかもバド・パウエルの「早弾き演奏」を思わせるような速射砲フレーズです。彼の名盤『アット・クラブ“ベビー・グランド”』(ブルーノート)における《スィート・ジョージア・ブラウン》の圧倒的スピード感は驚嘆もの。そして演奏全体が醸し出すどうしようもないアーシーな感覚こそが黒人音楽ならでは。
ウェス・モンゴメリーはさほど黒さを前面に出すタイプのギタリストではないのですが、実はソウルフルなヴァイヴ奏者ミルト・ジャクソンと共演する場面では、ブラック・ミュージックならではの余裕に満ちた味わいを見せていますね。ハンク・モブレイ、チャーリー・ラウズ、ジョニー・グリフィンといったテナーマンたちはそれぞれ多彩ながら、リズムに対する独特の「間」の取り方、ダークなテナー・サウンドといった黒人プレイヤーならではの特徴で「黒さ」を体現しています。
ピアノという楽器は構造上あまり「黒く」は演奏できないものなのですが、ホレス・パーランの手にかかるとまるで別の楽器のようですね。サイドの面々、テナーのブッカー・アーヴィン、ギターのグラント・グリーンらの存在が効いています。
そして音そのもの、そしてフレーズ自体が「黒い」のがブラック・ギターの元祖、グラント・グリーンです。執拗に同じフレーズを繰り返すのもブラック・ミュージックならではのお約束。
【参考アルバム】
Kenny Burrell 『Midnight Blue』 (Blue Note)
Stanley Turrentine 『Never Let Me Go』 (Blue Note)
Tina Brooks 『True Blue』 (Blue Note)
土・日曜日 22:00~ 2時間番組
ジャズ喫茶リアル・ヒストリー/後藤雅洋
発売中/河出書房新社/ISBN 978-4-309-27067-8
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