
マイルス・デイヴィス『クッキン』(Prestige)

東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお送りします。毎夜22:00~24:00の「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定で、後藤雅洋が執筆したコラムとともにジャズの魅力をお伝えします。
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備考毎月1日に更新
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テンポオール
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マイルス・デイヴィス『クッキン』(Prestige)
「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」 第123回
「ジャズの巨人」シリーズ 第1回 マイルス・デイヴィス(再放送)
今回から、私が監修している小学館刊行のCD付隔週マガジン『ジャズの巨人』にちなみ、ジャズ史に名を残したビッグ・ネームたちの名演・名盤をご紹介して行こうと思います。第1回目はマイルス・デイヴィスです。マイルスは時代によって大きくスタイルを変え、そして彼の「新趣向」自体が「モダン・ジャズ」の領域を広げて行った、文字通りジャズの巨人です。
マイルスは天才アルト奏者、チャーリー・パーカーのサイドマンとしてジャズマン人生をスタートさせますが、パーカー流、即興第一主義に疑問を感じ、アンサンブルにも意を払った9重奏団によるアルバム「クールの誕生」(Capitol)を40年代末に録音します。このサウンドは後にウエスト・コースト・ジャズに影響を与えました。
しかしマイルス自身は次の時代のジャズ、ハードバップの先駆けとも言えるアルバム「ディグ」(Prestige)を、ソニー・ロリンズ、ジャッキー・マクリーといった次世代のスターたちとレコーディングしています。50年代初頭のことでした。そして54年のクリスマス・イヴに録音された「バグス・グルーヴ」(Prestige)は、マイルスが共演者の先輩、セロニアス・モンクに「オレがソロをとっている間はバックでピアノを弾くな」と言った、有名なアルバムです。
「喧嘩セッション」などと言われていますが、むしろハードバップ流、「楽想の統一」を考えたマイルスの音楽観が背後にあったのではないでしょうか。そして、その成果ともいうべき名盤が56年に大量録音されます。世に言う「プレスティッジ・マラソン・セッション」と、それと同時期のコロンビア録音「ラウンド・ミッド・ナイト」です。これらに録音された名曲「ラウンド・ミッドナイト」や「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」は、マイルスの名を不動のものとした名演です。
58年、早くもハードバップの行き詰まりを感じ取ったマイルスは、新時代のジャズを目指し「モード」の考えを取り入れた演奏「マイルストーン」(Columbia)を録音します。そしてこの発想は、翌59年録音の歴史的名盤「カインド・オブ・ブルー」(Columbia)に結実します。このアルバムは現在に至るまで、ジャズ・アルバムとしては驚異的な累積販売枚数を誇っています。
そして60年代マイルス初期の名盤として、レギュラー、テナー奏者、ハンク・モブレイと、ゲスト参加した元サイドマン、ジョン・コルトレーンが共演した「いつか王子さまが」(Columbia)がジャズ喫茶で大人気を博します。この時期はサイドマンがなかなか一定せず、さまざまなテナー奏者がマイルス・コンボに去来します。
64年録音のライヴ盤「フォア&モア」(Columbia)は、ジョージ・コールマン参加の名ライヴ盤として知られると同時に、まだ10代のトニー・ウィリアムスの火の出るようなドラミングが素晴らしい。そしてようやくレギュラー、テナー奏者がウェイン・ショーターに決まり、傑作「ソーサラー」(Columbia)が67年に吹き込まれます。しかしマイルスの前進は止まりません。69年にはエレクトリック楽器を大胆に取り入れた記念碑的作品「ビッチズ・ブリュー」(Columbia)を吹き込み、エレクトリック・マイルスの次代が始まります。「アット・フィルモア」(Columbia)は70年代前半の名演です。
そしてマイルスは75年の大阪公演を最後に、6年に及ぶ活動停止期間を経た後、81年に「ザ・マン・ウィズ・ザ・ホーン」(Columbia)を引っさげ、颯爽とシーンにカムバック。その後は今回最後に収録した「デコイ」(Columbia)など、多くのレコーディング、そしてライヴで80年代シーンを牽引して行ったのです。
【掲載アルバム】
マイルス・デイヴィス『クッキン』(Prestige)
マイルス・デイヴィス『カインド・オブ・ブルー』(Columbia)
マイルス・デイヴィス『ビッチズ・ブリュー』(Columbia)
月曜日 22:00~ 2時間番組

チェット・ベイカー『チェット・ベイカー・イン・ミラノ』(Jazzland)
「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」 第48回
チェット・ベイカー特集 その1 「50年代60年代のアルバムから」(再放送)
1929年オクラホマ州の音楽一家に生れたチェット・ベイカーは、40年にロサンゼルスに移住する。そして西海岸を訪れたチャーリー・パーカーと共演することによってジャズ・トランペッターの道を歩み始めたが、パーカーとともにニューヨークに進出することはなく西海岸に留まり、ジェリー・マリガンと組んだ“ピアノレス・カルテット”が大人気を博して50年ウエスト・コースト・ジャズのスターとして一躍脚光を浴びることになった。
その後、麻薬がらみの事件に巻き込まれさまざまな問題を抱えるが、70年代にヨーロッパを活動拠点としてシーンに復帰、80年代には日本でも30年ぶりの人気が再燃し来日も果たした。今回はそうした数奇な運命をたどったミュージシャン、チェット・ベイカーを3回に渡ってご紹介するその第1回目として、50年代60年代のアルバムをお聴いただきます。
ヨットのジャケットからマニアの間で「加山雄三のチェット」などと呼ばれている『チェット・ベイカー&クルー』(Pacific Jazz)は初期の傑作で、チェットの自信に満ちた力強いトランペット・サウンドが聴き所だ。続く『チェット・ベイカー・シングス・アンド・プレイズ』(Pacific Jazz)は、タイトル通りチェットのヴォーカルとトランペットの魅力が1枚で楽しめる徳用盤。特に、晩年彼のドキュメンタリー映画のタイトルともなった《レッツ・ゲット・ロスト》は、チェットが生涯一度しか録音しなかったという貴重なトラック。
57年の秋、ようやくニューヨークに活動拠点を移したチェットが、58年にハードバップ・テナーの大物、ジョニー・グリフィンと共演したのが『チェット・ベイカー・イン・ニューヨーク』(Riverside)だ。このアルバムでチェットは黒人の一流ミュージシャンとも互角に渡り合えることを証明した。
ミュージカル「マイ・フェア・レディ」の作者として名高いラーナー&ロウのコンビの作品集である『チェット・ベイカー・プレイズ・ラーナー・アンド・ロウ』(Riverside)はチェットのメローな魅力が楽しめるアルバムで、サイドにはビル・エヴァンスも参加している。バリトン・サックス、フルートなどを組み合わせた華麗なサウンドから、ウエスト・コースターらしい軽やかなチェットのトランペットが浮かび上がる。
59年ドラッグで逮捕されたチェットは釈放後単身イタリアに渡り、現地で吹き込んだのが『チェット・ベイカー・イン・ミラノ』(Jazzland)だ。私生活ではさまざまな問題を抱えつつもイタリアの空気が彼を元気にさせたのか、いたって快調なチェットが聴ける。そして64年、5年ぶりにアメリカに戻って吹き込んだのが「プレスティッジ5部作」などと呼ばれている作品群で、『スモーキン』(Prestige)はその中の1枚。ジョージ・コールマンをサイドに迎えたクインテットはまさにハードバップ。
そして今回最後にご紹介するのがチェット・ベイカーの名をわが国に知らしめた初期の大ヒット作『チェット・ベイカー・シングス』(Pacific Jazz)で、60年代のジャズ喫茶では、このアルバムの《マイ・ファニー・ヴァレンタイン》が実に良くリクエストされたものだった。そしてアメリカでも、彼の中性的とも言えるヴォーカルがご婦人方、そしてゲイの方々からも絶大な人気を博し、50年代のさまざまな人気投票で一位の座を獲得するに至ったのである。
【掲載アルバム】
チェット・ベイカー『チェット・ベイカー・シングス』(Pacific Jazz)
チェット・ベイカー『チェット・ベイカー&クルー』(Pacific Jazz)
チェット・ベイカー『チェット・ベイカー・イン・ニューヨーク』(Riverside)
火曜日 22:00~ 2時間番組

キース・ジャレット『スタンダーズ第1集』(ECM)
「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」 第61回
『ジャズ・ジャイアンツ、これだけ聴けば大丈夫』 その8 キース・ジャレット(再放送)
現代ジャズピアニストに大きな影響を与え、今も大きな人気を誇るキース・ジャレットは、1960年代にテナー・サックス奏者、チャールス・ロイドのサイドマンとしてデビューした。ロイドの『ドリーム・ウィーヴァー』(Atlantic)でのキースは、それまでのジャズピアニストとは明らかに発想の違う斬新な感覚でファンに注目され、また、このロイドのアルバムでキースは、後にチームを組むことになるドラマー、ジャック・デジョネットと出会っている。キースのスタート地点を知るに欠かせない作品だ。
その後キースは2枚のリーダー作を吹き込むが、3作目にあたる『サムウエア・ビフォー』(Voltex)でボブ・ディランの《マイ・バック・ペイジ》を取り上げ、ロック世代のジャズピアニストであることを印象付ける。そして71年に吹き込んだ画期的なソロ・アルバム『フェイシング・ユー』(ECM)で、新世代ピアニストとしての地位を確固たるものとすると同時に、チック・コリアと共に70年代ソロピアノ・ブームの先駆けとなる。
70年代以降キース・ジャレットは、サイドにテナーのデューイ・レッドマンを従えた、いわゆる「アメリカン・カルテット」と、ヨーロッパのミュージシャン、ヤン・ガルバレクをサイドとした「ヨーロピアン・カルテット」の二つのグループで演奏活動を行ってきたが、『宝島』(Impulse)は、アメリカン・カルテットのメンバーにギターとパーカッションが加わった楽しいアルバム。
一方、同じ年に出たヨーロピアン・カルテット『ビロンギング』(ECM)では、独自の個性的サウンドを持ったガルバレクのテナー、ソプラノ・サックスが人気を呼んだ。『生と死の幻想』(Atlantic)は編成としてはアメリカン・カルテットだが、チャーリー・ヘイデンのベースとのデュオで演奏された《祈り》がキースのリリックな面を捉え、大変素晴らしい。
70年代、キースは大量のソロ・アルバムを発表し、どの作品も即興演奏の新たな可能性を切り拓いた斬新な傑作だったが、中でも『ステアケース』(ECM)はキースの即興の素晴らしさと旋律の美しさが際立った名演。ヨーロピアン・カルテットの2作目である『マイ・ソング』(ECM)は、キースのロマンチックなメロディメーカーとしての資質が人気を呼んだ。それにしても、同じカルテット編成でも、デューイ・レッドマンのアメリカン・カルテットとはずいぶん雰囲気が違う。こうした異なる性格を持ったメンバー達と同時に活動できるのは、キースの音楽性の幅広さを示すものだろう。
70年代、ソロ、二つのカルテット、そしてクラッシク的アプローチの作品など、極めて多彩な音楽性を見せたキースだが、それらはほとんどがオリジナル作品であった。そのキースが、80年代に入ると突如としてスタンダード・ナンバーを取り上げるためのグループ「スタンダーズ・トリオ」をゲイリー・ピーコック、ジャック・デジョネットと結成し、ファンの意表を突いた。『スタンダーズ第1集』(ECM)は、その後おびただしい数のスタンダーズ・シリーズを出すこととなったトリオ編成の記念すべき第1作で、当時流行した予定調和的スタンダード演奏に対する批判を込めた、極めて意欲的な演奏。以後、多くのピアノトリオ・グループが彼らの緊密な演奏を手本とした。
80年代から90年代かけ旺盛な演奏活動を展開したキースだが、慢性疲労症候群という病気に罹り、しばらく演奏活動の中断を余儀なくされた。『ザ・メロディ・アット・ナイト・ウイズ・ユー』(ECM)は、病が回復した後の演奏で、それまでの鋭さは消えたが、その代りに、音楽に対する深い愛情が聴くものの心を捉えるしっとりとしたわいがキースの新境地を示している。
【掲載アルバム】
キース・ジャレット『スタンダーズ第1集』(ECM)
キース・ジャレット『生と死の幻想』(Impulse)
キース・ジャレット『フェイシング・ユー』(ECM)
水曜日 22:00~ 2時間番組

ジョニー・グリフィン『ザ・ケリー・ダンサーズ』(Riverside)
「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」 第76回
「私の好きなジャズ」その2~黒々グルーヴ編(再放送)
実を言うと、私が最初に好きになった音楽はソウル・ミュージックでした。60年代アメリカンポップスももちろん好きでしたが、そうした軽やかで快適な白人系サウンドとは一味違う、ダークでちょっとクセのあるオーティス・レディングやらマーヴィン・ゲイの歌声に深く魅了されました。ジャズを聴き始める以前のことです。
ところで「黒いジャズ」というと「ファンキージャズ」を思い浮かべる方が多いと思いますが、私の好みはちょっと違うのです。同じ黒っぽさでも、単にノリの良いだけのファンキーものより、グルーヴ感覚の強い、どちらかというとシブ目のサウンドに惹かれるのです。
代表的なのは冒頭にご紹介するウェス・モンゴメリーの名盤『フル・ハウス』(Riverside)でしょう。ウェスのギターとグリフィンのテナー、そしてケリーのピアノが醸し出す極上のグルーヴ感覚はいつ聴いても最高です。
黒いギターの2番手はケニー・バレルです。『ミッドナイト・ブルー』(Blue Note)は彼の代表作ですが、黒さに的を絞って聴くなら、アナログ時代のB面冒頭に収録された《ウェイヴィー・グレイヴィー》に止めを刺します。下腹に響くベースに先導され、バレルとスタンレイ・タレンタインの絶妙のコンビが、聴き手を黒人音楽ならではのアーシーな世界に誘ってくれます。
そして誰もが認める黒いギターマンがグラント・グリーンでしょう。シンプルなシングルトーンは一聴しただけでグリーンと知れます。
同じサックスでも、グルーヴィーな気分を醸し出してくれるのはやはりテナーのようです。豊かな低音が黒さを倍加させるのです。そしてテンポはゆったりとしている方がグルーヴ感は強くなる。ジョニー・グリフィンの黒い最高傑作が『ザ・ケリー・ダンサーズ』(Riverside)B面なのです。
チャーリー・ラウズはモンクのサイドマンのイメージが強いのですが、彼のリーダー作からはふてぶてしいほどのブラック感覚が漂ってきます。これほど黒い《あなたは恋を知らない》は他では聴けません。
独特のタッチが印象的なホレス・パーランの演奏は、ホーン奏者とやっても、ピアノトリオでもアーシーなグルーヴ感覚に溢れています。『ハッピー・フレーム・オブ・マインド』(Blue Note)の聴きどころは、これも黒いテナー、ブッカー・アーヴィンとグラント・グリーンの参加でしょう。ご存知『アス・スリー』(Blue Note)は、パーランのトリオ演奏の代表作です。
タレンタインのリーダー作『ネヴァー・レット・ミー・ゴー』(Blue Note)は、奥方シャーリー・スコットのオルガンが黒さを際立たせています。そして黒いオルガンの極めつけ、ジミー・スミスの『バック・アット・ザ・チッキン・シャック』(Blue Note)では、タレンタインとバレルがサイドマン。メンバーだけで黒さがわかります。
異色のテナーマン、ローランド・カークがアレサ・フランクリンの名唱《アイ・セイ・ア・リトル・プレイヤー》を熱演している『ボランティアード・スレイヴリー』(Atlantic)は彼の隠れ名盤。そして、これはジャズではありませんが、ジャマイカ出身のモデル兼歌手、グレース・ジョーンズのレゲエ・アルバム『リヴィング・マイ・ライフ』(Polystar)の聴きどころは、なんと言ってもスライ・アンド・ロビーの強力なリズム・セクションでしょう。レゲエの黒さも大好きです。
黒さの源流、アフリカはナイジェリアのテナーマン、フェラ・クティのアルバムは、その名も『ファンキスト・グルーヴVol.1』(Victor)です。これもまたリズムが素晴らしい。最後はまたウェスの名盤『フル・ハウス』に戻り《ブルーン・ブギー》をお聴きください。
【掲載アルバム】
ウェス・モンゴメリー『フル・ハウス』(Riverside)
ケニー・バレル『ミッドナイト・ブルー』(Blue Note)
ジョニー・グリフィン『ザ・ケリー・ダンサーズ』(Riverside)
木曜日 22:00~ 2時間番組

ギル・エヴァンス『スヴェンガリ』(Atlantic)
「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」 第109回
ギル・エヴァンス特集(再放送)
時代と共に評価が高まるアーティストがいます。ジャズの世界ではギル・エヴァンスがその代表ではないでしょうか。マイルス・デイヴィスとのコラボレーションで知られた名アレンジャー、ギル・エヴァンスの音楽は、今、弟子筋に当たるマリア・シュナイダーの活躍に象徴されるように、改めてスポットが当たっています。
最初にご紹介するのは、そのマイルスのアルバム『スケッチ・オブ・スペイン』(Columbia)です。クラシック作曲家、ロドリゴの名曲《アランフェス協奏曲》を見事ジャズ作品として世に問うたこの作品は、1960年代のジャズ喫茶で爆発的人気を得たものです。原曲の持つエキゾチックな雰囲気を活かしつつ、マイルスのちょっと陰影感のあるトランペット巧みにフィットさせたのは、ひとえにジャズとマイルスを知り尽くしたギルだからこそ出来たワザでしょう。
その一方で、ギルはミュージシャンのイメージまで変えてしまうようなアレンジも見せます。『ギター・フォームス』(Verve)では、それまでアーシーなハード・バップ・ギタリストとして知られたケニー・バレルの新たな可能性を引き出しました。想像力を刺激する選曲構成、アレンジはギルの手柄。このアルバムもまた60年代ジャズ喫茶のヒット盤でした。
『ビッグ・スタッフ』(Prestige)はギルの50年代後半の作品で、彼の空間を音響のカーテンで包み込むような独特の手法が明確に聴き取れます。そしてそのちょっと霞がかかった様なサウンドの壁から、極めて個性的で明確な輪郭持ったスティヴ・レイシーのソプラノ・サックスが姿を現す演出は見事。ちょっとクセのあるサウンドですが、慣れるとけっこうのめり込みます。
ギルのサウンドに対する探求は当然新たなツール、エレクトリック・サウンドにも向かいます。シンセサイザーを大胆に導入したアルバム『スヴェンガリ』(Atlantic)はギルの新生面を知らしめた傑作。ギルの音楽的好奇心は極めて幅広く、それこそ「ジャズ」に限りません。60年代後半彗星のごとく現れ、1970年に惜しくも亡くなってしまったロック・スター、ジミ・ヘンドリックスに捧げた『プレイズ・ジミ・ヘンドリクス』(RCA)は、優れた音楽家を素材として、それを極上のジャズ作品として纏め上げるギルの非凡な才能がうかがえます。
聴きどころは、後にフュージョン・シーンで大活躍するデヴィッド・サンボーンの一聴して彼とわかる特徴的なソロでしょう。スティーヴ・レイシーといいサンボーンといい、ギルはバック・サウンドとソロイストの個性の対比のさせ方が実に巧妙。それはもちろんマイルスについても言えることです。
アレンジャーであるギルは、当然歌伴においても優れた作品を残しています。1987年に吹き込まれた『コラボレーション』(EmArcy)は、ヘレン・メリルとのほぼ30年ぶりの再演アルバムで、しっとりとした情感を湛えたメリルの歌唱をギルのサウンドが優しく支えています。
私がギルのオーケストラをライヴで観たのは1980年代に入ってからでした。その時の驚きは今でも覚えています。極めて色彩感に溢れるサウンドに深い奥行きがあるのです。これはさまざまな楽器の音色がナマの空間でブレンドされてはじめて実感でき性質のものなのでしょう。その時の感動を最も良く伝えているのが『プリースティス』(Antilles)です。
【掲載アルバム】
ギル・エヴァンス『ビッグ・スタッフ』(Prestige)
ギル・エヴァンス『スヴェンガリ』(Atlantic)
ギル・エヴァンス『プリエステス』(Antilles)
金曜日 22:00~ 2時間番組

アニタ・オディ『アニタ・シングス・ザ・モスト』(ヴァ―ヴ)
「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」 第253回
「ジャズ喫茶のジャズ」 第13回 : “アメリカの歌” ガーシュウィン名唱・名演集
ジャズ・スタンダードとなったアメリカの作曲家シリーズは、コール・ポーターに次いで今回のジョージ・ガーシュウィンが2回目です。この二人は名実ともにスタンダード(繰り返し多くのミュージシャンが採り上げた楽曲)となった名曲ぞろいなのですが、二人の作風は微妙に色合いが違うことに気が付きました。
それはポーターの楽曲はオリジナルが「歌」でも、ジャズメンたちによるインスト演奏がいくらでもあるのに対し、ガーシュウィンの場合は圧倒的にヴォーカル・ナンバーが多いのです。ですから、いちおう「名唱・名演集」としましたが、その上に付いた「アメリカの歌」という言い方はまさにガーシュウィンのためにあるのだと思い至ったのです。そのためポーターではヴォーカルとインストを同じぐらい収録できたのですが、ガーシュウィンは歌が多くなってしまったというわけなのです。
その理由として思いつくのは、ポーター楽曲は独特の「ひねり」(メジャー・ムードから巧みなマイナー調への移行など)がジャズマンたちの興味を惹いたと思えるのに対し、ガーシュウィン・ナンバーは旋律の移行がスムースなので、歌い手さんが歌いやすいのでは、と想像できるのですね。
冒頭に採りあげたアニタ・オディの《ス・ワンダフル》から《誰にも奪えぬこの思い》に至るメドレーでは、珍しくチャーリー・パーカーが《誰にも奪えぬこの思い》を演奏しています。彼の得意な即興演奏は控えめで、ストリングスのメロディを活かした仕立てとなっているのがいかにもガーシュウィン的です。
実はジャズ・ヴォーカリストとしても一流のサミー・デイヴィス・ジュニアとカーメン・マクレエによる《ㇷ―・ケアーズ》はまさに名唱です。それに対しアニタの同曲は良い意味で力の抜けた心地よい歌となっています。
「エラ・サラ・カーメン」と謳われたカーメン・マクレエとエラ・フィッツジェラルドが、《うまくやれたら》と《いつのころから》で対決、二人の違いが良く表れていますね。伝説的歌い手、ビリー・ホリディと白人女性ヴォーカルのトップ、アニタ・オディも《バット・ノット・フォーミー》で対決、これはほんとうに「違って」いますね。そしてジョン・コルトレーンが同曲を演奏しているのも意外。
そして晩年のビリーが歌う《アイ・ラヴ・ユー・ポーギー》をビル・エヴァンスがトリオで演奏していますが、これまたほんとうに雰囲気が違っていて、まさにジャズを聴く醍醐味です。「違う」と言えば、クリス・コナーが歌う《優しき伴侶を》とローランド・カークの同曲の気分の違いも興味深いですね。
そしてクリスの《ストライク・アップ・ザ・バンド》のインスト版、ソニー・スティットとバド・パウエルのバージョンは、この楽曲のドライヴ感を活かした歌唱、演奏ということで同じ方向を向いた名唱・名演ということが言えると思います。
ジャズマンが必ず採り上げるスタンダード中のスタンダード《アイ・ガット・リズム》を歌うジュディ・ガーランドは想像以上にパワフル。そしてそのインスト版ハンプトン・ホーズのピアノ演奏も心地よいリズムが冴えています。エラ・フィッツジェラルドとルイ・アームストロングの名コンビによる《俺らは無いものだらけ》は、まさしく歌でしか表現できない世界でしょう。
エラの「フォギー・ディ」は説明の要のない名唱ですが、今回チャールス・ミンガスの同曲を「タイトル」を意識して聴いて、途中の自動車のホーンのような擬音が「霧のため」の警笛なんだと今更のように気が付いた次第です。
エラが歌う「ザ・マン・アイ・ラヴ」もインスト版が多い楽曲ですが、ここではよく知られたアート・ペッパーのバージョンを聴いてみましょう。ナット・キング・コールとオスカー・ピーターソンによる《わが恋はここに》は、ともにこの楽曲の美しい旋律を活かした正攻法の名唱・名演と言えます。
そしてサラの歌う《エンブレサブル・ユー》もまたオーソドックスな名唱。最後を締めるガーシュウィンならではの名曲《サマータイム》をストレートに歌うサラと、まったく自分流にアレンジしたコルトレーン・バージョンの対比は、まさにジャズの面白さと言えるでしょう。
【参考アルバム】
アニタ・オディ『アニタ・シングス・ザ・モスト』(ヴァ―ヴ)
カーメン・マクレエ『ブック・オブ・バラード』(キャップ)
ジョン・コルトレーン『マイ・フェヴァリット・シングス』(アトランティック)
土・日曜日 22:00~ 2時間番組

ジャズ喫茶リアル・ヒストリー/後藤雅洋
発売中/河出書房新社/ISBN 978-4-309-27067-8

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