
オスカー・ピーターソン『フランク・シナトラの肖像』(Verve)

東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお送りします。毎夜22:00~24:00の「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定で、後藤雅洋が執筆したコラムとともにジャズの魅力をお伝えします。
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備考毎月1日に更新
歌 入/無混在
テンポオール
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オスカー・ピーターソン『フランク・シナトラの肖像』(Verve)
「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」 第129回
「ジャズの巨人シリーズ」 第7回 オスカー・ピーターソン(再放送)
オスカー・ピーターソンは前回の巨人、バド・パウエルとは対照的なピアニストです。若干気難しいところもあるパウエルに比べ、ごくふつうの音楽ファンにも受け入れられるポピュラリティがピーターソン人気の秘密でしょう。それを支えるのは、圧倒的なピアノの演奏技術と快適なリズム感によって生み出される、陽気な音楽性です。
パウエルに限りませんが、どちらかというと「ブルージー」という言い方に象徴されるちょっとダークなテイストがジャズの魅力でもあるのですが、人種差別が希薄なカナダ生まれということもあるのか、ピーターソンの音楽はとことん陽気。
冒頭に収録したのは、ロンドン・ハウスでのライヴ・レコーディング。「ロンドン・ハウス」というとイギリス録音かと思いきや、場所はシカゴ。サイドマンはピーターソンに長年付き従ったレイ・ブラウンとエド・シグペンの黄金のトリオ。「ザ・トリオ」とまで呼ばれただけあって息の合い具合は完璧。ライヴという寛いだ雰囲気の中でピーターソンの魅力が全開です。選曲も「アイ・リメンバー・クリフォード」「枯葉」など良く知られたナンバーで、まさにライヴ名盤と言っていいでしょう。
ピーターソンというと弾きまくる印象が強いですが、ピーターソンが一目置いていた大歌手フランク・シナトラの愛唱曲を弾く「フランク・シナトラの肖像」(Verve)は実に趣味の良いアルバムです。メンバーは例のザ・トリオですが、こちらはパリでのレコーディング。先入観かもしれませんが、演奏全体から醸しだされる雰囲気がどこかお洒落。あまり言及されませんが、これもまたピーターソンの一面を切り取った名演です。それにしても選曲の趣味がいいですねえ。
ピーターソンはヴァーヴ・レコードのオーナー・プロデューサーであるノーマン・グランツに見出されので、彼の主催するJATPで名のあるホーン奏者たちとの共演はお手のもの。「オスカー・ピーターソン・トリオ+ワン」(Mercury)は、クラーク・テリーを迎えたワン・ホーン・セッション。
さきほど、ジャズマンは黄昏感覚というかマイナー調を持ち味とする人が多いと書きましたが、クラーク・テリーは例外。独特の笑っているような陽気なトランペットは、ピーターソンの明るいキャラクターと実に良くフィットしています。
60年代後半、ピーターソンはそれまで長く在籍していたヴァーヴを離れ、当時の西ドイツMPSレーベルに移籍します。これはピーターソンに新境地をもたらしました。それはファンにとっても同じで、とりわけMPSの鮮明なピアノ録音はピーターソンのピアノ・テクニックをよりリアルに感じさせてくれます。「ガール・トーク」はその中でも人気の高かったアルバム。
MPSは好企画が多く、「ハロー・ハービー」は昔の仲間ハーブ・エリスを迎えた快適なギター・カルテット。ピーターソンならではのドライヴ感がエリスの参加で一層魅力を増しています。同じく「顔合わせ企画」の名盤が「リユニオン・ブルース」。こちらはヴァイヴのミルト・ジャクソンを迎えたカルテットですが、ピーターソンのキャラクターに合わせたのか、いつもはブルージーなミルトがのりのりですね。とてもあの「M.J.Q.」と同じ楽器編成の演奏とは思えません。もちろんピーターソンのピアノも絶好調。これもまた折り紙つきの名盤でしょう。
【掲載アルバム】
オスカー・ピーターソン『ライヴ・アットザ・ロンドン・ハウス』(Verve)
オスカー・ピーターソン『フランク・シナトラの肖像』(Verve)
オスカー・ピーターソン『リユニオン・ブルース』(MPS)
月曜日 22:00~ 2時間番組

ソニー・ロリンズ『サキソフォン・コロッサス』(Prestige)
「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」 第54回
『ジャズ・ジャイアンツ、これだけ聴けば大丈夫』 その1 ソニー・ロリンズの名盤(再放送)
今回からジャズ・ジャイアンツの極め付き名盤、そして、とりあえずこれだけは聴いておきたい彼らの名演の数々をご紹介していこうと思います。現在でも元気に活躍しているテナー・サックスの大御所ソニー・ロリンズは、1950年代からジャズ・シーンの第一線で活動し、多くの名盤を残しています。
『ソニー・ロリンズ第2集』(Blue Note)は、珍しくトロンボーンのJ.J.ジョンソンとの2管クインテットで、収録時期は1957年ですがバップ的勢いにあふれた快演。ホレス・シルヴァーのピアノも決まってます。他のトラックには、ロリンズと相性のよいモンクも入っている。
そしてご存知『サキソフォン・コロッサス』(Prestige)。このアルバムの代名詞的名曲《セント・トーマス》も素晴らしいが、マニアは《ストロード・ロード》がお気に入り。そして《あなたは恋を知らない》も極め付きです。とにかくこのアルバムはすべての曲に利き所がある、まさに彼の代表作。
『サキコロ』とならんで有名な『ヴィレッジ・ヴァンガードの夜』(Blue Note)は、ライヴ・レコーディングの名盤として評価が高い。ロリンズ自身の曲目紹介で始まる《ソニームーン・フォー・トゥー》はこのアルバムの白眉で、ゴリゴリとしたちょっと硬質なロリンズのテナー・サウンドはいやがうえにも臨場感を盛り上げます。
ソニー・ロリンズを語るとき、必ず言われるのが彼の「歌心」です。ビ・バップのギザギザしたラインに比べ、ロリンズのフレーズは滑らかでメロディアス。それでいてジャズのスリルは失われていないのですから、これは凄い。そうした彼の資質が現れたのが『ワーク・タイム』『ウィズ・モダン・ジャズ・カルテット』(ともにPrestige)ではないでしょうか。コール・ポーターの名曲《イッツ・オールライト・ウィズ・ミー》や《ウイズ・ア・ソング・イン・マイ・ハート》の流れるような軽やかさ、この境地は本当に誰にもまねできません。
もちろんロリンズはハードバップ的名盤も多く、ウイントン・ケリーをサイドに従えた『ニュークス・タイム』(Blue Note)はその手の人気盤です。人気といえば映画の主題歌を扱った『アルフィー』(Impulse)も発売当時ジャズ喫茶でよくかかりました。このアルバムはアレンジも良かった。
ロリンズはあっさり系のアルバムにも良いものが多く、『サウンド・オブ・ソニー』(Riverside)などはブルーノートのものとは一味違う上品さが聴き所。その系列に属するのがウエスト・コースト・ジャズの大物たちと共演した『ウエイ・アウト・ウエスト』『ウイズ・コンテンポラリー・リーダーズ』(ともにContemporary)で、ロリンズのテナーの音色がブルーノート録音とはまったく違うのが面白い。プロデューサー、録音技術者の感性の違いがよくわかります。
80年代以降のロリンズはあまり注目されていないようですが、『プレイズ・G・マン』(Milestone)は久しぶりの快演です。15分以上吹きまくるタイトル曲は圧巻。そして最後の『ビッグ・ブラス』(Metro Jazz)は、レーベルが珍しいのであまり知られていないのですが、トリオ演奏を収録した面が素晴らしい。後にヴァーヴから『ブラス&トリオ』と改題されて出たので、そちらを探してみることをお奨めいたします。
【掲載アルバム】
ソニー・ロリンズ『サキソフォン・コロッサス』(Prestige)
ソニー・ロリンズ『ヴィレッジ・ヴァンガードの夜』(Blue Note)
ソニー・ロリンズ『ワーク・タイム』(Prestige)
火曜日 22:00~ 2時間番組

デクスター・ゴードン『ゴー!』(Blue Note)
「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」 第68回
『ジャズ・ジャイアンツ、これだけ聴けば大丈夫』 その15 デクスター・ゴードン(再放送)
1923年生まれのデクスター・ゴードンは、26年生まれのジョン・コルトレーン、29年生まれのソニー・ロリンズなどよりは上の世代に属するテナー・サックス奏者で、1940年代にバド・パウエルと共演するなど、ビ・バップ時代から活躍したジャズマンだ。しかし50年代は麻薬のため活動を中断、1961年にブルーノートと契約した頃から人気が出始め、63年から76年にかけてはヨーロッパに活動拠点を移していた。
『ゴー!』(Blue Note)はワンホーンの傑作で、オリジナルの名曲《チーズ・ケーキ》を気持ちよく吹いている。落ち着いた音色で演奏をピリリと締めるサイドのソニー・クラークも適役で、このアルバムの価値を高めている。聴き所は豪快なテナーの音色が実にスムースなところで、ゴードンは迫力と滑らかさが同居する珍しいタイプのテナー奏者であることがよくわかる。
『ゲッティング・アラウンド』(Blue Note)はボビー・ハッチャーソンのヴァイブが参加しているが、いわゆる“60年代新主流派”的な緊張感は無く、演奏曲目も《黒いオルフェ》など親しみやすい曲が並び、肩の力を抜いたデクスター・ゴードンの心地よいテナー・サウンドを楽しむアルバムだ。
パリに在住していたバド・パウエルとの再会セッションである『アワー・マン・イン・パリ』(Blue Note)は大物同士の顔合わせだが、ともにバップ世代だけに違和感はなく、マイペースのパウエルを自由に振舞わせつつ、自らも奔放にテナーを吹きまくっている。彼らの手かかると、バップ・チューン《スクラップル・フロム・ジ・アップル》が生き生きと60年代に蘇る。デクスター・ゴードンはこのパリ録音以後ヨーロッパに定住し、70年代ハードバップ・リバイバルの動きを準備する。
『モンマルトル・コレクション第1集』(Black Lion)は「モンマルトル」とあるのでパリの録音とカン違いしそうだが、北欧コペンハーゲンのジャズクラブでのライヴ・レコーディング。同じくヨーロッパに活動拠点を移したケニー・ドリューがサイドで煽り立てる《ソニー・ムーン・フォー・トゥー》が絶品で、時代は60年代後半だがハードバップ全盛期を彷彿させる熱演だ。このエネルギーがヨーロッパ発の70年代ハードバップ・リバイバルの起爆剤となった。
『クラブハウス』(Blue Note)はフレディ・ハバードとの2管セッションで、サイドのピアノはバリー・ハリス。メンバーを見ただけで出来がよさそうだと想像できるが、まさにその通りの気持ちよいハードバップ・セッションで、なぜこれが録音当時お蔵入りしてしまったのかはまったくわからない。ブルーノートの贅沢さを思い知らされる
70年代、デクスター・ゴードンは北欧のスティープル・チェース・レーベルに大量に録音を残し、ハードバップの魅力を再認識させた。『サムシング・ディファレント』(Steeple Chase)はギターのフィリップ・カテリーンの参加が新鮮。『バウンシン・ウイズ・デックス』『ジ・アパートメント』(Steeple Chase)は、それぞれ《カタロニアン・ナイト》《アンティーブス》の熱演が聴き所。
1976年帰米したゴードンはコロンビアに吹き込みを開始、『ゴッサム・シティ』(Columbia)ではジョージ・ベンソンをサイドに従え、大物の貫禄を見せている。そして最後にご紹介するのが、50年代にワーデル・グレイと共演して話題となった「テナー・バトル」の再現で、70年代ヴァージョンのお相手はジョニー・グリフィン。吹きまくり大会なのに渋い味わいがあるのはさすが。
【掲載アルバム】
デクスター・ゴードン『ゴー!』(Blue Note)
デクスター・ゴードン『モンマルトル・コレクション第1集』(Black Lion)
デクスター・ゴードン『ゴッサム・シティ』(Columbia)
水曜日 22:00~ 2時間番組

バド・パウエル『シーン・チェンジス~アメイジング・バド・パウエルVol.5』(Blue Note)
「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」 第82回
「私の好きなジャズ」その8~ジャズを聴き始めた頃の愛聴盤(再放送)
今回はちょっと趣向を変え、もう一度ジャズ初心者の気持ちを思い出してみようという思いも込め、私がジャズを聴き始めたころはいったいどんなアルバムを聴いていたのか、ご紹介しようと思います。
バド・パウエルの超有名盤『シーン・チェンジス~アメイジング・バド・パウエルVol.5』(Blue Note)は、高校生の頃試験勉強をしながら繰り返し聴きました。最初は大方のファンと同じように、エキゾチックな曲想が魅力的な《クレオパトラの夢》が好きでしたが、次第に他の曲も好きになり、また、無意識のうちにバド・パウエルという特異なジャズマンが放つ、ジャズならではの「味の濃い音楽」の魅力に惹かれて行きました。
特にジャズファンでなくとも一度は耳にした事のある超有名曲《テイク・ファイヴ》が収録されたデイヴ・ブルーベックの『タイム・アウト』(Columbia)も、まだ輸入盤が高価だったころ、無理をして購入しました。これも最初はアナログ盤A面の最後に収録された《テイク・ファイヴ》が出てくるまで、じっとガマンして他の曲を聴いているような状態でしたが、そのうち、そのガマンの曲《トルコ風ブルー・ロンド》などもなかなかいいなと思うようになったのを憶えています。飛ばして聴くのがメンドウなアナログ盤ならではの効用でしょう。とは言え、まだ「アドリブ」などというものは、特に意識していなかったと思います。
私がジャズを聴き始めた1960年代はジョン・コルトレーンが一世を風靡していましたが、そのころはあまり過激なジャズは敬遠していました。しかし、ちょっと異国情緒も感じさせる《オレ》は、難しく構えなくともすっと入って行けるので、これもずいぶん愛聴したのを憶えています。要するにこの時期はふつうの音楽ファンと同じように、メロディでジャズを聴いていたのでしょう。
そうした中で、ちょっと特異なのがエリック・ドルフィーの『ファイヴ・スポットVol.1』(Prestige)でした。かなり異様な旋律が乱舞する《ファイアー・ワルツ》を、どうしたわけか好きになったのです。しかし、このアルバムを購入したのはジャズ喫茶開店のためでしたから、時期としては最初にご紹介した3枚よりは2~3年後のことでした。「アドリブ開眼」とまでは行かないと思いますが、単にわかりやすいメロディ・ラインに惹かれる段階から、もう少し「演奏の力」みたいなものの魅力が体感できるようになっていたんでしょうね。
そして同じくジャズ喫茶開店当時によく聴いたのが、ビル・エヴァンスの「リヴァーサイド4部作」(名ベーシスト、スコット・ラファロとの共演アルバム)でした。有名な『ワルツ・フォー・デビー』ももちろん好きでしたが、どちらかという同日録音の『サンディ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード』や、今回ご紹介した『エクスプロレーションズ』の方をよく聴いていました。とりわけ、アナログ時代B面に収録されていた《ナルディス》のなんともいえない美しさには圧倒されたものです。
最後にご紹介するのはM.J.Q.の『フォンテッサ』(Atlantic)で、これは端正でクラシック的なところが入りやすかったのかもしれませんが、今でも愛聴しているところをみると、表面の優雅さの裏に隠れた、ジャズならではの緊張感のあるコラボレーションの魅力を無意識のうちに聴きとっていたのかもしれません。
【掲載アルバム】
バド・パウエル『シーン・チェンジス~アメイジング・バド・パウエルVol.5』(Blue Note)
デイヴ・ブルーベック『タイム・アウト』(Columbia)
ジョン・コルトレーン『オレ』(Atlantic)
木曜日 22:00~ 2時間番組

リー・モーガン『ソニック・ブーム』(Blue Note)
「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」 第115回
リー・モーガン特集(再放送)
1961年に初来日し、日本中をファンキー・ブームで沸かせたアート・ブレイキーとジャズ・メッセンジャーズの一行に、リー・モーガンも参加していました。また、1963年に録音され翌年日本にも輸入されたモーガンの『サイドワインダー』(Blue Note)は、ジャズ・ロック・ブームのきっかけを作った人気盤です。ですから60年代ジャズ喫茶では、モーガンの人気は絶大でした。しかし今改めて振り返ってみると、リー・モーガンの魅力は典型的ハードバップ・ジャズマンとしての活躍にあったように思います。
最初にご紹介するアルバム、1967年録音の『ソニック・ブーム』(Blue Note)は、いわゆる発掘盤として1970年代に発売されたものですが、演奏内容は素晴らしく、いまさらながらブルーノートの底力を思い知らされました。この作品は昨年、オリジナル・ジャケットでCD化されましたので入手は容易でしょう。聴きどころはなんと言ってもモーガンの調子の良さで、快調にハイノートをヒットさせています。サイドのテナー奏者ディヴィッド・ニューマンはあまり知られていませんが、悪くない。また、ビリー・ヒギンスのシンプルながらキレの良いドラミングも気持ちよい。
2枚目にご紹介する『シティ・ライツ』(Blue Note)は、ジョージ・コールマンとカーティス・フラーが加わった3管セクステット。ベニー・ゴルソンがアレンジを担当しており、構成の巧みさで聴かせる典型的ハードバップ。デビューからわずか1年目でモーガンはまだ10代ながら、ブルーノートは彼のアルバムを立て続けに出しており、この作品はすでに4作目。彼の早熟振りがうかがわれます。
『ザ・クッカー』(Blue Note)は、バリトン・サックス奏者ペッパー・アダムスと初共演したアルバムで、ゴリゴリと迫力の低音で迫るアダムスと、高音域で吹きまくるモーガンの対比が聴き所。それにしてもモーガンのトランペットの切れ味は素晴らしい。録音は1957年で、ファンキーなタッチで鳴らしたボビー・ティモンズのピアノといい、背後で煽りまくるフィリー・ジョー・ジョーンズのドラミングといい、まさにハードバップ真っ盛り。
ベニー・ゴルソン作の名曲《ウイスパー・ノット》で始まる『リー・モーガン・セクステット』(Blue Note)は、テナーのハンク・モブレイが加わっており、ゴルソンの巧みな3管アレンジがモーガンの演奏を引き立てている。それにしてもこのアルバムはブルーノート、デビューのわずか1ヵ月後に吹き込まれており、レーベル・オーナー、アルフレッド・ライオンのモーガンへの力の入れようがわかります。
意外なことに、リー・モーガンはワンホーン・カルテットのアルバムは『キャンディ』(Blue Note)のみ。ソニー・クラークのピアノがしっかりと脇を固める中、モーガンはのびのびとマイペースです。ブルーノート1500番台の中でも人気が高く、オリジナル盤の価格は今でもかなりなもの。ブルーノートの看板役者、リー・モーガンらしい傑作です。
最後にご紹介するのは、これも有名な作品。シンプルなタイトル『リー・モーガンVol.3』 (Blue Note)は、クリフォード・ブラウンの死後1年を経ずして吹き込まれた名演《アイ・リメンバー・クリフォード》を含むモーガンの代表作。この作品も作曲者ゴルソンが音楽監督の役割を務めています。しかし、美しいメロディを何のけれんみもなく吹き切って、しかもそこにモーガンとしての個性、オリジナリティを感じさせるところなど、やはりモーガンは只者ではない。夭折が惜しまれます。
【掲載アルバム】
リー・モーガン『ソニック・ブーム』(Blue Note)
リー・モーガン『キャンディ』(Blue Note)
リー・モーガン『リー・モーガンVol.3』(Blue Note)
金曜日 22:00~ 2時間番組

ビル・エヴァンス『エクスプロレーションズ』(リヴァーサイド)
「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」 第259回
「ジャズ喫茶のジャズ」 第19回 : ピアノ・ジャズなら“リヴァーサイド”だ!
1960年代当時、ジャズ・ファンの間で「ジャズ3大レーベル」という言い方がありました。筆頭にはブルーノート、あるいはプレスティッジが挙げられるのが決まりで、3番目の「リヴァーサイド・レーベル」は大体最後に挙げられたものです。ただしそれは、リヴァーサイド・レーベルがブルーノート、プレスティッジに対し劣っているということではありません。
ブルーノートの設立は1939年、プレスティッジは“ビ・バップ”勃興と時を同じくする1949年、それに対しリヴァーサイドは1952年。しかも「モダン・ジャズ」に特化したアルバム制作を開始したのは若干遅れ1955年ということが「3番目」という立ち位置に繋がっているのです。
また、55年以降リヴァーサイド・レーベルのジャズ・レコーディングを実質的に取り仕切ったオリン・キープニュースはレーベル・オーナーではなく、社長は彼の学生時代の友人、ビル・クロウワー。そしてキープニュースは単なる「ファン」では無く、評論家でもあったのです。ですから、リヴァーサイドには「ジャズ啓蒙」という発想が少なからず窺えるのです。
それが、「大物」でありながら一時忘れられていたセロニアス・モンクの再デビューであり、ビル・エヴァンスの重要レコーディングなのですね。こうした経緯もあって、リヴァーサイドにはこの二人に代表される「ピアノ・ジャズ」の秀作が多いのです。
冒頭に収録したセロニアス・モンクの「ウェル・ユー・ニードント」は問題山積の「迷演」にしてしかも「名演」。御大モンクがソロの小節数を間違え、出だしを遅れてもいないコルトレーンに対し、「コルトレーン、コルトレーン」と叫び、それを聞いて慌てたブレイキーが場違いなタイミングでお得意の「ナイアガラ・ロール」を叩いています。しかしジャメンの凄さか直ちに立ち直り、何ごともなかったかのような「名演」に仕立て直しちゃったのですね。
次はウィントン・ケリーのギター入り演奏です。「ジャズ」におけるギターの役割についていろいろな考えがあるようですが、私は何より音楽の輪郭がまろやかになることを挙げたいですね。
渋めピアニスト、フレディ・レッドの名を知っていたらあなたはもうジャズ喫茶上級ファン。彼はパウエル派ピアニストにして作曲の名手。有名なのは麻薬をテーマとしたジャズ・ミュージカル「コネクション」ですが、そちらはフロントでソロを取るジャッキー・マクリーンに耳が行きがち。それに対し、こちらはご本人の切れの良いピアノ・ソロが自作曲を引き立てています。13分に及ぶ大作ですが、聴き手を飽きさせないワザはさすが。
ボビー・ティモンズと言えば、「黒い粘り感」が聴きどころ。この演奏でもそうした彼の特徴がいかんなく発揮されています。せっつくようなアルバート・ヒースのドラムスに乗ってファンキーかつリズミカルなティモンズ節が炸裂。ノリの良いピアノ・トリオ演奏の傑作で
す。
誰に勧めても文句の来ないピアノ・トリオなら、リヴァーサイドの『ケニー・ドリュー・トリオ』で決まりです。同名のアルバムがブルーノートにもありますが、そちらは彼の出自パウエル派ピアノストという面に光が当たっています。そこから一歩踏み出し、ドライヴ感とわかりやすさに秀でたドリューならではの個性が発揮された極め付き名盤がこれ。
バリー・ハリスもまたケニー・ドリューと並ぶパウエル派ピアニストですが、ドリューとの微妙な違いを聴き別けるのがマニアのお約束。それはリズムとかタッチといった「技術的要素」にポイント置くより、「その結果」生まれた音楽の「気分」に着目するのが正解。それは、ケリーのところで触れた「ギター入り」でなくとも自然に生じているくつろぎ感なのです。加えて彼ならではの「洒脱さ」に気が付けばもうあなたは純正ハリス・ファン。
ジュニア・マンスの立ち位置は大きな眼で見れば「パウエル派」と言ってもいいのでしょうが、ちょっと微妙。それは明らかに彼ならでは「口調」というか俗に言えば、「マンス節」とでも言いうるフレージングがあるからです。それは「個性」を第一とするジャズ・ミュージシャンにとっては紛れもない賛辞。
ちなみに「ジャズランド」とは、60年ごろキープニュースによって興された傍系レーベルで、リヴァーサイドと同列に扱って良いでしょう。なお、一時期話題となった北欧の同名レーベルとは別物です。
言わずと知れたマイルス・デイヴィス・クインテットの要員ピアニスト、レッド・ガーランドですが、その本拠地ともいうべきプレスティッジ盤とは微妙に味わいが違うのですね。わかりやすいのは録音の音色で、ピアノの高域の伸びなどは明らかにこちらの方がピアノの生音に近い。その結果ガーランドのタッチの輝かしさが活かされています。
リヴァーサイド・レーベルの凄いところは「パウエル派ピアニスト」だけでなく、対照的なエヴァンス派ピアニストの名演もぬかりなく網羅しているところです。その代表選手ドン・フリードマンの極め付き名盤『サークリ・ワルツ』からの選曲なのですから、悪かろうはずがありません。
リヴァーサイド・レーベルにはビル・エヴァンスが名ベーシスト、スコット・ラファロを擁した傑作アルバムが4枚あり、巷ではこれらを「リヴァーサイド4部作」などと称し称揚しています。どれも甲乙つけがたい名盤・名演ですが、エヴァンスの美意識の結晶と言えば、今回収録した《ナルディス》にとどめをさすでしょう。
《参考アルバム》
セロニアス・モンク『モンクス・ミュージック』(リヴァーサイド)
『ケニー・ドリュー・トリオ』(リヴァーサイド)
ビル・エヴァンス『エクスプロレーションズ』(リヴァーサイド)
土・日曜日 22:00~ 2時間番組

ジャズ喫茶リアル・ヒストリー/後藤雅洋
発売中/河出書房新社/ISBN 978-4-309-27067-8

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