D51ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)
D51ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)

東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお送りします。毎夜22:00~24:00の「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定で、後藤雅洋が執筆したコラムとともにジャズの魅力をお伝えします。

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月曜日 22:00~

『ソニー・ロリンズ・ウィズM.J.Q.』(Prestige)

「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」 第91回
「サイドマン聴きシリーズ」 その8・ケニー・ドリュー(再放送)


 サイドマン聴きシリーズ、ピアニスト編はトミー・フラナガン、ウイントン・ケリーと、バド・パウエルの系譜に連なるミュージシャンをご紹介してきましたが、今回もパウエル派ピアニスト、ケニー・ドリューです。「名盤の影にトミフラあり」と言われたフラナガン、ソロでも個性を発揮するケリーに対し、ドリューの持ち味はどこにあるのでしょう。
バップ・ピアノをわかりやすく噛み砕いた典型的ハードバップ・ピアニスト、ケニー・ドリューは、幅広いタイプのジャズマンに対応できる柔軟性と、軽快でノリの良いリズム感が多くのファンから好かれる理由ではないでしょうか。そして興が乗ればフロントを煽りまくる小気味よさが彼の魅力を倍増させています。
 冒頭ジョン・コルトレーンの『ブルー・トレーン』(Blue Note)は有無を言わせぬ名盤ですが、典型的3管ハードバップ・セッションをピシっとキメているのは裏方ドリューのワザ。名脇役のおかげでリー・モーガン、コルトレーン、そしてカーティス・フラーが心置きなく吹きまくれるのです。そして、ドリューならではの軽やかでスインギーなソロがアルバムに彩りを添えています。
 かつてコルトレーンとともに2大テナーと歌われたソニー・ロリンズとも、ドリューは共演しています。タイトルは『ウィズM.J.Q』(Prestige)ですが、このアルバムは2つのセッションから成っており、もうひとつのセッションのサイドマンがドリューです。どちらの演奏も素晴らしいのですが、とりわけロリンズの歌心が心行くまで堪能できる《ウィズ・ア・ソング・イン・マイ・ハート》《中国行きのスローボート》が心地よい。軽やかな曲想にマッチしたドリューの明るさがジャストフィット。これは豪放さばかりが喧伝されるロリンズの、肩の力を抜いた「隠れ名盤」と言ってよいのではないでしょうか。
 ドリューはテナーマンばかりではなく、ウエストコースト出身の黒人アルト奏者、ソニー・クリスのサイドマンを務めたこともあります。独特の味わいを持ったクリスのアルトがむせび泣く『ジャズU.S.A.』(Imperial)は、《柳よ泣いておくれ》《ジーズ・フーリッシュ・シングス》が名演。ドリューの出番はあまりありませんが、これはクリスを聴くトラックと言えるでしょう。
 そして、満を持してドリュー節が全開するのがデクスター・ゴードン『モンマルトル・コレクションVol.1』(Black Lion)。名曲《ソニー・ムーン・フォー・トゥー》を取り上げ、共にヨーロッパに活動拠点を移したデックスとドリューが異国の地で燃えまくる。これは紛れも無い名演です。
 デクスター・ゴードンはじめ60年代後半から70年代にかけ、ベテラン・ジャズマンのヨーロッパ移住が多くなりましたが、ブローテナーの第一人者、ジョニー・グリフィンもその一人。彼らの演奏を記録したヨーロッパ・レーベル「スティープル・チェース」は、いわゆる“70年代ハードバップ・リバイバル”の先駆け的レーベルです。グリフィンのアルバム『ブルース・フォー・ハーヴィー』(Steeple Chase)は、まさに記念碑的作品。
 そしてご存知ジャッキー・マクリーンとも、もちろんドリューは共演しています。アルバム『ブルースニク』(Blue Note)のアナログ盤B面に収録されたセッションは、しみじみとした味わいの隠れ名演。最後にご紹介するのはちょっと異色、白人モダン・クラリネットの大物、バディ・デフランコの『ミスター・クラリネット』(Verve)。ドリューの万能選手振りが発揮された傑作です。

【掲載アルバム】
『ソニー・ロリンズ・ウィズM.J.Q.』(Prestige)
デクスター・ゴードン『モンマルトル・コレクションVol.1』(Black Lion)
ジョニー・グリフィン『ブルース・フォー・ハーヴィー』(Steeple Chase)

月曜日 22:00~ 2時間番組

火曜日 22:00~

ジョン・コルトレーン『ジャイアント・ステップス』(ATL)

「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」 第24回
『ジャズレーベル完全入門』~アトランティック編(再放送)


 アトランティック・レコードは、1947年にアーメット・アーティガン、ハーブ・エイブラムソンの二人のレコード・コレクターによって設立された。当初、黒人購買層を狙ったR&Bレーベルとしてスタートし、この部門ではアレサ・フランクリン、オーティス・レディングなど、名だたる大物スターをレコーディングしている。
 アトランティックがジャズに力を入れだしたのは少し遅れ、1955年アーメットの兄弟であるネスヒ・アーティガンがプロデューサーとして参加してからで、マイルス、ロリンズなど人気ミュージシャンは既にブルーノートやプレスティッジに押さえられていた。そのため、オーネット・コールマンなど先鋭的な新人ミュージシャンを積極的にレコーディングすることとなった。この後発レーベルゆえの革新性と、後述するバラエティに富んだ人選がアトランティックの特徴と言えるだろう。
 マイルスのサイドマンとしてデビューしたコルトレーンは、独立した後、アトランティック・レーベルと契約することによって、ジャズマンとしての新たな一歩を踏み出した。『ジャイアント・ステップス』はまさに彼の記念碑的作品で、コード進行に基づくアドリブを極限まで推し進めることによって、新時代のミュージシャンとしてのスタンスを確立させたのだった。
 チャールス・ミンガスは自主レーベルでの吹き込みを積極的に行っていたが、『直立猿人』で一般的な人気を得たと言ってよいだろう。たった2管の編成でこれほど濃密なサウンドを構築できるのは、ミンガスを置いていない。ジャズに「怒り」の感情を持ち込んだことでも画期的だった。
 アトランティックの面白いところは、R&Bからスタートしたにもかかわらず、それとは対照的な“クール派白人ジャズ”も積極的に紹介しているところだ。盲目の白人ピアニスト、レニー・トリスターノは、40年代から活躍していながら孤高のミュージシャンとしてほとんどアルバムを残していない。彼の数少ないリーダー作『レニー・トリスターノ』には“トリスターノ楽派”の特徴とされる、うねうねとフレーズが連なる“ホリゾンタル・スタイル”や、テープ操作を施したトラックなど実験的な試みが記録されている。
 そして彼の高弟として知られたリー・コニッツ、ウォーン・マーシュが共演した『リー・コニッツ・ウィズ・ウォーン・マーシュ』では、トリスターノ派の特徴は残しつつも先生がいない分くつろいだ姿勢を見せているのが面白い。
 50年代末に“フリー・ジャズ”の旗手としてスポットを浴びたオーネット・コールマンは、『ジャズ来るべきもの』でジャズ界の話題を独占した。今聴けばさほど変わった音楽には聴こえないのだけど、それはジャズの歴史がオーネットの示した方向へと進化したからだろう。
アトランティックの功績の一つに、ローランド・カークを積極的にレコーディングしたことが挙げられる。一昔前は「ゲテモノ」などと言われた彼の音楽が正当に評価されるにあたって、このレーベルの果たした役割は大きい。
 最後に、今でこそ「M.J.Q.」はオーソドックスなグループだったと見なされているけれど、当時はクラシック的要素を導入するなど、かなり実験的な音楽と見なされていたことを忘れてはいけない。その「M.J.Q.」のジョン・ルイスがオーネットをニューヨークのシーンに紹介したことも、ファンは覚えておくべきだろう。

【推薦アルバム】
ジョン・コルトレーン『ジャイアント・ステップス』(ATL)
オーネット・コールマン『ジャズ来るべきもの』(ATL)
M.J.Q.『ヨーロピアン・コンサート』(ATL)

火曜日 22:00~ 2時間番組

水曜日 22:00~

マイルス・デイヴィス『フォア・アンド・モア』

「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」 第37回
『ジャズレーベル完全入門』~CBSコロンビア編(再放送)


 今回からまた、私の書いた『ジャズ・レーベル完全入門』よりアルバムを選んだ、レーベル特集を再開いたします。再開第一弾のCBSコロンビアは、デッカ、RCAと並ぶ3大メジャー・レーベル。世界最初のジャズレコードである1917年『オリジナル・デキシー・ランド・ジャズ・バンド』がコロンビアで録音されたことからも、この会社の歴史、ジャズとのかかわりの深さがわかる。
 ただ、会社が大きいだけに、ブルーノートやプレスティッジのように、リー・モーガンやジャッキー・マクリーンといった50年代の新人たちをいち早く発掘したような小回りは効かない。マイルス・デイヴィスにしても、プレスティッジで注目されたあと、ようやくコロンビアに移籍している。その代わり、ヴォーカルを含めた新旧の一流ジャズマンを網羅した幅広いセレクションは、やはりメジャーならではの豪華かさだ。
 1曲目はコロンビア、ジャズ部門の看板ともいえるマイルス・デイヴィスの『フォア・アンド・モア』。まだ10代のトニー・ウイリアムスが叩き出す超高速ドラミングに、当時の一流ジャズマンが何をこしゃくなとばかりに呼応するスリルがたまらない。マイルスのアグレッシヴな一面が出た快演。そして、リヴァーサイド・レーベルによってファンに知られるところとなった孤高のピアニスト、セロニアス・モンクもコロンビアに移籍している。レーベルは変われど、ユニークさに変わりは無い。
 トロンボーンという楽器に対する認識を変えたJ.J.ジョンソンも、楽器別人気投票ナンバーワンの常連。『ブルー・トロンボーン』は彼の親しみやすい面が出た傑作。一時ヨーロッパに移住していたデクスター・ゴードンが、70年代久しぶりのアメリカ録音をコロンビアに残している。『ゴッサム・シティ』は1980年に録音されたその中の1枚。
 マイルスのサイドマンとして名を上げたハービー・ハンコックも多くのアルバムをコロンビアから出しているが、『ダイレクト・ステップ』は日本で制作された作品。同じくマイルス門下のウエイン・ショーター、ジョー・ザヴィヌルが結成した双頭グループ、ウエザー・リポートも70年代コロンビア・レーベルを代表するスター・プレイヤーだ。
 フリージャズの巨人として知られたオーネット・コールマンと専属契約を結んだりするのも、コロンビアの懐の深さを示すもので、『チャパカ組曲』は映画のサウンド・トラックとして作曲されたオーネットの大作。
 日本ではそれほど評価されなかったが、デイヴ・ブルーベックのアメリカでの人気はたいしたものだった。超有名曲《テイク・ファイヴ》で知られたアルバム『タイム・アウト』は日本でも流行ったが、マニアはアナログ時代のB面を愛聴したりしたものだった。ここではそのB面から2曲を収録。  コロンビアの凄いところは、アール・ハインズなど、スイング時代に名をなした巨人たちの録音もきちんと行なっているところだ。死後発表されたクリフォード・ブラウン最後の録音は、彼のトランペッターとしてのずば抜けた才能を示した名演。『コンサート・バイ・ザ・シー』は、独特のスタイルから「ワン・アンド・オンリー」と評されたエロール・ガーナーの代表作。
 ヴォーカルに眼を移せば、「マンハッタン・トランスファー」が手本としたお洒落なヴォーカル3人組「ランバート・ヘンドリクス・アンド・ロス」は、いかにもニューヨーク的。超大物ビリー・ホリディの最晩年の記録『レディ・イン・サテン』は聴き手の心にぐさりと刺さる絶唱だ。そして最後を締めくくるのは、これもピアノの巨人、バド・パウエルの晩年の傑作である。

【掲載アルバム】
マイルス・デイヴィス『フォア・アンド・モア』
オーネット・コールマン『チャパカ組曲』
バド・パウエル『ポートレイト・オブ・セロニアス』

水曜日 22:00~ 2時間番組

木曜日 22:00~

ジャッキー・マクリーン『ジャッキーズ・バッグ』(Blue Note)

「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」 第52回
ジャッキー・マクリーン特集 その2 「ブルーノート時代」(再放送)


 少し内幕話をすると、この番組は基本的に私の経営するジャズ喫茶いーぐるで、営業時間内に作っている。ジャズ喫茶の現場の感覚をそのままお伝えするためだ。とはいえ、ミュージシャン特集など、同じミュージシャンのアルバムが2時間続くときなど、営業時間外に作ることもある。
 ところがジャッキー・マクリーンの場合は、2時間マクリーンが続いても、営業に何の差しさわりも生じない。特に、今回お送りするブルーノート時代のマクリーンは、むしろジャズ喫茶らしい濃密な気分を漂わせた時間が心地良く過ぎていくのだ。改めてマクリーンはジャズ喫茶のミュージシャンであることを実感した次第である。
 1曲目の、アナログ時代は茶色一色のジャケットが強烈な印象で迫ってきた『ジャッキーズ・バッグ』(Blue Note)は、B面のブルー・ミッチェル、ティナ・ブルックスをサイドに従えた3管セクステットが聴き所。名曲《アポイントメント・イン・ガーナ》はジャズ喫茶のテーマ曲と言っても良い。
 続いてブルーノート時代の幕開けを象徴するワンホーンの傑作、59年録音『スイング・スワング・スインギン』(Blue Note)では、プレスティッジ時代の若干くすみ色のアルトの音色に、明るい力強さと艶が加わったことが実感されるだろう。
 そして、リーダーこそピアノのフレディ・レッドだが、同じくワンホーンで吹きまくる『ザ・ミュージック・フロム・ザ・コネクション』(Blue Note)は、マクリーン・ファンならゼッタイ外すことのできない必聴盤である。全曲フレディ・レッドのオリジナルだが、この哀愁を帯びた曲想がマクリーンの気分にピッタリなのだ。
 あまり取り上げられることはないが、フレディ・ハバードとの2管アルバム『ブルースニク』(Blue Note)のアナログB面は、タイトルどおりブルージーなマクリーンが堪能できる傑作。サイドのフレディもフュージョン時代しか知らないファンには意外な渋い味わいを出しており、マニア好みのアルバムと言えるだろう。
 『ティッピン・ザ・スケール』(Blue Note)は、未発表アルバムとして後から出されたためいまひとつ知られていないが、これはソニー・クラークがサイドを務める唯一のワンホーン。もちろん演奏も冒頭の曲を聴いただけでナットクのお買い得盤。
 マクリーン・ファンなら先刻承知のことと思われるが、サイド物にも傑作が多い。リー・モーガン名義の『リー・ウエイ』(Blue Note)は、ハードバップ・マニア好みの曲目《ジーズ・アー・ソウルフル・デイズ》、そしてブルーノートのプロデューサー、アルフレッド・ライオンと、彼の相棒であるカメラマン、フランシス・ウルフにちなんだ曲《ザ・ライオン・アンド・ウルフ》が並び、ジャズ喫茶での使い勝手が極めてよいアルバムだ。
 そして最後を飾る63年録音の『ワン・ステップ・ビヨンド』(Blue Note)は、ヴァイブのボビー・ハッチャーソン、トロンボーンのグラチャン・モンカー3世を従え、新たな60年代シーン到来を予告する意欲作。いわゆる“60年代新主流派”に近づきつつある時期の演奏だ。
 こうして59年から63年に至るジャッキー・マクリーンのブルーノート時代の前半をまとめて聴いてみると、この時期マクリーンは完全に自分のスタイルを確立させ、リーダーでも、サイドでも快調な演奏を続けざまに発表していたことが実感される。まさにマクリーンの絶頂期と言って差し支えないだろう。

【掲載アルバム】
ジャッキー・マクリーン『ジャッキーズ・バッグ』(Blue Note)
ジャッキー・マクリーン『スイング・スワング・スインギン』(Blue Note)
フレディ・レッド『ザ・ミュージック・フロム・ザ・コネクション』(Blue Note)

木曜日 22:00~ 2時間番組

金曜日 22:00~

カーメン・マクレエ『ブック・オブ・バラーズ』(Kapp)

「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」 第78回
「私の好きなジャズ」その4~ヴォーカル編(再放送)


 人の声というものは好き嫌いがハッキリしがちで、それだけにヴォーカルは難しいのだと思う。ただ巧いだけではダメなのだ。どういう声質が好きかは、人によってそれぞれなので、基準をわかりやすく説明するのはたいへんだ。
 まず、白人女性ヴォーカルからご紹介しよう。アニタ・オディは声質、歌い方ともにかなりクセが強く最初は馴染めなかったが、店を始めた頃、周りの友人たちにアニタ・ファンが多く、その影響もあって始終聴かせられているうちに、次第に好きになった。
その掠れ声はお世辞にも美声とは言いがたいが、高度な技巧に裏付けられた巧みなドライヴ感は、白人女性歌手ナンバーワンと言ってもおかしくない。『アニタ・シングス・ザ・モスト』(Verve)は、オスカー・ピーターソンの小気味良いピアノに乗って、アニタが絶妙の歌唱を聴かせる彼女の代表作。
 失礼な喩えかもしれないが、ちょっと脂が乗り過ぎのようにも聴こえるのが、ペギー・リーの声だ。ジョージ・シアリングをバックに迎えた『ビューティ・アンド・ザ・ビート』(Capitol)は、“クール”なシアリングのピアノのせいか、彼女のアルバムの中ではスッキリと聴けるのが好みの理由。
 ハスキーな声の質感や、微妙なニュアンスの出し方といった、まったく個人的好みで一番惹かれるのがクリス・コナーだ。もちろん歌唱技術は一級なのだが、それをあえて誇示しないところに好感が持てる。噂に過ぎないが、彼女は男性にはあまり興味が無いという。そのせいか、一部の女性歌手にありがちな「媚」が無いところも、個人的愛聴歌手ナンバーワンの理由だ。
 次は黒人女性ヴォーカリストで、最初はロレツ・アレキサンドリア。あまり有名とは言えないが、彼女の《ネイチャー・ボーイ》は絶品。そして私がもっとも好きな黒人女性歌手がカーメン・マクレエだ。ヴォーカルは、歌詞の説得力が音楽的説得力に繋がるように思う。カーメンの歌声は、英語を母国語としない私たちにも、実に切々と伝わってくる。『ブック・オブ・バラーズ』(Kapp)は、彼女の最高傑作にしてジャズヴォーカル・アルバムの金字塔と言って間違いない。
 そして、ジャズヴォーカリストの女王がビリー・ホリディだ。若き日の傑作《ラヴァー・マン》の素晴らしさ、そして晩年の録音『レディ・イン・サテン』(Columbia)の鬼気迫る迫真力には、誰しも圧倒されるに違いない。あまり有名ではないけれど、マキシン・サリヴァンはけっこう好きな歌い手だ。肩の力が抜けた、枯れた歌声は、いつ聴いても心温まる。
 技巧派ナンバーワンはサラ・ヴォーンではないかと思うけれど、アルバムによってはそのハイテク振りが鼻についたりもする。そんな中で、後期のブラジルものは彼女の良さが素直に出た傑作だと思う。『アイ・ラヴ・ブラジル』(Pablo Today)は、ブラジルのミュージシャンたちと共演した素晴らしい作品。
 現代ジャズヴォーカルのトップに君臨するのはカサンドラ・ウイルソンだろう。独特の深い声質を生かした歌唱は一種の迫力がある。マイルスにちなんだ『トラヴェリン・マイルス』(Blue Note)は、彼女ならではの世界を描き出している。最後にご紹介するのは男性歌手で、あまり知られていないがジョー・ヘンリーは面白い個性を持っている。正統ジャズ歌手ではないけれど、こういう歌も嫌いではない。
 そして最後を飾るのは、声質、技巧ともにナンバーワンのナット・キング・コールだ。ポピュラー・シンガーと思われているフシもあるが、名唱《キャラヴァン》を聴けば、彼が第一級のジャズ歌手であることに納得されることと思う。

【掲載アルバム】
カーメン・マクレエ『ブック・オブ・バラーズ』(Kapp)
クリス・コナー『ジス・イズ・クリス』(Bethlehem)
ナット・キング・コール『アフター・ミッドナイト』(Capitol)

金曜日 22:00~ 2時間番組

[Recommend!] 土・日曜日 22:00~

アルネ・ワデ『Sultan』(Enja)

「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」 第230回
新譜紹介 第95回


 ジャズ喫茶をやっていると、来店するお客様を通してジャズ・ファンの現状や変遷が実感として伝わってきます。私がジャズ喫茶を開いた1960年代は若い学生さんが主体で、その後そうした方々がお歳を召されるに応じ、ファン層の年齢も上がって行きました。
 しかしここ数年、明らかにお客様の若返りが顕著になると同時に、海外からの熱心なファンが目立つようになってきたのです。つい先日も韓国からおいでになった若い女性に「ジャズを聴き始めたばかりだけど、やはり素敵ですね」と話しかけられ、同じ現象が隣国でも起こっているのではないかと感じたのです。
 ところが翌日、今度は若い男性の二人組がおいでになり、なんと背中に「EX MACHINA SEOUL」と書かれたパーカーを羽織っているではありませんか。ステーヴ・リーマンの「EX MACHINA」は先々月この番組でご紹介したばかりの新譜です。よっぽどこのお二人に韓国のソウルで彼らのライヴでもあったのか尋ねてみようかと思ったのですが、この時私はカウンター内で忙しくパスタを茹でていたので聞きそびれてしまいました。ともあれ、近年韓国でも若い世代のジャズ・ファンが増え始めたのは間違いないようです。ジャズ・シーン活性化は間違いなく世界レベルで起こっているのですね。

 まえ振りはこれぐらいにして本題に入りましょう。最初にご紹介するのはマーシャル・ギルクスがドイツの名門WDRビッグ・バンドと共演したアルバム、Marshall Gilkes and The WDR Big Band 『Life Songs』 (Alternate)です。ギルクはマリア・シュナイダー・オーケストラのメンバーを経てWDRのレギュラーも務めたトロンボーンの名手であると同時に、作編曲もこなすオールラウンドなミュージシャンだけに、ダイナミックなバンド・サウンドから浮かび上がるトロンボーン・ソロが聴きどころですね。
 今回もUKジャズ・シーンの多様性がうかがえる興味深い作品が登場しました。スピリチュアル・ジャズ・グループとでも呼べそうなエインシャント・インフィニティ・オーケストラは、ファラオ・サンダース、アリス・コルトレーン、ジョン・コルトレーンらの影響を受けたイギリスの14人からなるグループです。
 彼らの新作『River of Light』 (Gondwana)からは確かに「スピリチュアル」な感覚が聴きとれると同時に、アメリカ系のサウンドとは一味違う雰囲気が漂っています。しかしそれは取り立ててUK的というわけではなく、むしろ「スピリチュアル・ジャズ」に対する新たな解釈とでも言った方が当たっているようにも感じました。とにかくUKシーンは「なんでもアリ」なんですね。
 イスラエル出身のベーシスト、オル・バレケットの新作『Sahar』(Enja)は、話題のヴァイブ奏者ジョエル・ロスがプロデュースを担当したこともあるのか、従来の作風とはいささか雰囲気が異なっています。タイトルの「Sahar」は「三日月」あるいは「不眠症」「早朝」という意味があるそうですが、確かに砂漠の夜景を思わせるような神秘的な曲想の楽曲もありますね。じっくり聴くと味わいが増してくるタイプの音楽と言えそうです。
 アルネ・ワデはフランスを拠点として活動するセネガルのベーシスト/ボーカリスト兼コンポーザー。彼の新作『Sultan』(Enja)はエスニック・テイスト満載の興味深いアルバムです。一聴、日本の「演歌」を思わせるマイナー・メロディは、おそらく近ごろ話題のエチオピアの音楽の影響ではないでしょうか。しかしホーンのソロは完全に「現代ジャズ」で、それにかぶさる「どマイナー・メロディ」のミス・マッチぶりが面白いのですね。これまた「なんでもアリ」現代シーンの特徴でしょう。
 アメリカで活動後、2016年ギブソン・ジャズ・ギター・コンテストで最優秀賞を受賞したギタリスト、松原慶史の『Live Vol.1』(Nyan)は、馬頭琴を学びにモンゴルに出かけたベーシスト、落合康介、タブラ奏者としての顔も持ち、たびたびインドを訪れるというドラマー、大村亘を迎えたトリオ編成。
 収録楽曲は良く知られたスタンダード・ナンバーですが、ありきたりの「懐メロ」ではなく、現代の空気が漂う意欲的な演奏。それでいながらオーソドックスな「ジャズ」のテイストが失われていないのは、松原のスタンダード理解の深さによるものでしょう。
 最後に収録したのは黒田卓也とのコラボレーションで知られたミュンヘンのピアニスト、マティアス・バブラスのオーソドックスなピアノ・トリオ・アルバム『Orange Sea』(Enja)です。ドイツのピアニストというと何かしら「冷徹さ」みたいな先入観を持ちがちですが、マティアスの演奏は精緻でありながら暖かみを感じさせるところが素敵ですね。

【掲載アルバム】
アルネ・ワデ『Sultan』(Enja)
松原慶史『Live Vol.1』(Nyan)
マティアス・バブラス『Orange Sea』(Enja)

土・日曜日 22:00~ 2時間番組

インフォメーション

ジャズ喫茶リアル・ヒストリー/後藤雅洋
発売中/河出書房新社/ISBN 978-4-309-27067-8

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発売中/河出書房新社/ISBN 978-4-309-27067-8

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