D51ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)
D51ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)

東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお送りします。毎夜22:00~24:00の「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定で、後藤雅洋が執筆したコラムとともにジャズの魅力をお伝えします。

放送スタイルタイムテーブル参照

備考毎月1日に更新

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  • アーティスト名
    • 23:43:42
    • Staircase Part 2
    • Keith Jarrett
    • 23:48:24
    • Staircase Part 3
    • Keith Jarrett

月曜日 22:00~

ホレス・シルヴァー『ホレス・シルヴァー・トリオ』(Blue Note)

「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」 第92回
「サイドマン聴きシリーズ」 その9・アート・ブレイキー(再放送)


アート・ブレイキーは1960年代、ジャズの代名詞的存在として知られた人気グループ「ザ・ジャズ・メッセンジャーズ」のリーダーとして日本のファンに紹介されました。1961年、リー・モーガン、ウエイン・ショーターといった人気若手ミュージシャンを引き連れて来日し、一大ジャズ・ブームを巻き起こしたのです。そしてライヴで見せる華々しいドラムソロは、ブレイキー人気に拍車をかけました。
こうした背景があるので、ブレイキーというとウィントン・マルサリスに至る歴代メッセンジャーズ・バンドのスターたちや、豪快な得意技、ナイアガラロールのイメージがまず印象に残り、バンド・サウンドを支える一ドラマーとしてはどうだったのか、あまり語られることが無かったようです。サイドマン・シリーズの9回目は、サイドマンとしてのアート・ブレイキーを取り上げ、脇役としてのブレイキーの魅力に迫ります。
1枚目、人気テナー奏者ソニー・ロリンズの快演『ソニー・ロリンズVol.2』(Blue Note)でブレイキーは、セロニアス・モンク、J.J.ジョンソンといった超一流のジャズマンと共演していますが、華麗な技を存分に発揮し、大物連中に一歩も引けをとらない堂々とした風格を見せています。
一方、マニア好みのテナー奏者クリフ・ジョーダンの隠れ名盤『ブローイング・イン・フロム・シカゴ』(Blue Note)では、ハードバップ・ドラムの定番、脇から煽り立てるドラミングで、渋い味わいのクリフ・ジョーダン、ジョン・ギルモアの2テナーを引き立てています。まさにハードバップの名脇役です。
ブレイキーとブルーノート・レーベルは切っても切れない深い繋がりがありますが、もう一人のブルーノート名物男、オルガンのジミー・スミスのサイドを務めたのが『ザ・サーモン』(Blue Note)です。リー・モーガン、ルー・ドナルドソン、ティナ・ブルックスの3管にケニー・バレルが加わった豪華な編成によるジャム・セッション風演奏を、ブレイキーは派手なワザは一切見せず渋く支え、まさに裏方に徹しています。
一転して、まさにブレイキー印の派手なドラミングで始まるハンク・モブレイ『ロール・コール』(Blue Note)は、ハードバップ・マスター、ブレイキーの面目躍如。演奏の勢い、躍動感がいかにドラマーによって支えられているかがよくわかる快演です。ふだん控えめなモブレイもフレディ・ハバードに合わせ、ゴリゴリと吹きまくりです。
ケニー・バレルの『ブルー・ライツVol.2』(Blue Note)は、ブルーノートの隠れ名盤『ヒア・カムス・ルイ・スミス』で一部に強固なファンがいるトランペッター、ルイ・スミスと、これまたブルーノート幻の名盤『トゥルー・ブルー』でマニアご存知、ティナ・ブルックスがフロントを務める渋めの好盤です。そしてここでもブレイキーの、快適かつメンバーを活気付けるドラミングが演奏を気持ちの良いものにしています。
さて最後は、アート・ブレイキーにザ・ジャズ・メッセンジャーズの名称を譲ったホレス・シルヴァー初期のピアノ・トリオ・アルバム『ホレス・シルヴァー・トリオ』(Blue Note)。《サファリ》では、シルヴァーもまたバド・パウエル派の一員だったことが伺えます。そしてエンディングには、このアルバムからブレイキーのドラムソロ《ナッシング・バット・ソウル》を収録しました。

【掲載アルバム】
ソニー・ロリンズ『ソニー・ロリンズVol.2』(Blue Note)
ハンク・モブレイ『ロール・コール』(Blue Note)
ホレス・シルヴァー『ホレス・シルヴァー・トリオ』(Blue Note)

月曜日 22:00~ 2時間番組

火曜日 22:00~

ジョン・コルトレーン『アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード』(Impulse)

「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」 第25回
『ジャズレーベル完全入門』~インパルス編(再放送)


インパルスは、ブルーノートやプレスティッジなど、個人経営に近いマイナー・カンパニーと違い、ABCパラマウント・レコードのジャズ専門レーベルとして1961年にスタートした。新レーベル立ち上げに際して、後にCTIレーベルで活躍する名プロデューサー、クリード・テイラーが力を貸している。
彼はインパルスの看板役者とも言うべきジョン・コルトレーンをアトランティックから引き抜いたが、自身はヴァーヴ・レコードに移り、後任プロデューサー、ボブ・シールに後を託すことになる。
シールは潤沢な資金を元にコルトレーン・ミュージックを世に問うが、1961年はジャズ・シーンの変革期に当たっており、その時期に60年代最大のスターとなるコルトレーンを擁したことがこのレーベルの方向を決定した。それは革新的でエネルギッシュな60年代シーンを代表する、新時代のレーベルという斬新なイメージだ。
実際、コルトレーンが本来の強烈な個性を発揮したのはインパルスに移籍してからで、『至上の愛』『アセンション』など、彼の問題作と言われるものはほとんどこの会社から出されている。今回収録した『アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード』には、エリック・ドルフィーを擁した歴史的コルトレーン・クインテットの生々しい演奏が記録されており、これ1枚で60年代ジャズの熱気が実感されるはずだ。
革新的ジャズと言えば、チャールス・ミンガスを忘れることは出来ない。彼の力強いベースと個性的アレンジの両方が楽しめる『5ミンガス』は、ベースファンにはたまらない魅力だろう。そしてそのミンガス・グループに在籍したエリック・ドルフィーが素晴らしいソロをとっているオリヴァー・ネルソンの『ブルースの真実』は、アレンジの手法が変わったことをはっきりと示した傑作だ。黒々としたエネルギーとモダンなセンスが巧みに融合しているところが、いかにも60年代的といえる。
インパルスは伝統的なミュージシャンの演奏も着実に記録しているが、サイドにローランド・カークが入っているところなど、やはり斬新な感覚がうかがえる。ロイ・ヘインズの名盤『アウト・オブ・ジ・アフタヌーン』は60年代ジャズ喫茶の人気盤だった。
キース・ジャレットというとECM専属のようなイメージを持たれがちだが、アメリカにおける彼の傑作はインパルスあってこそだ。『生と死の幻想』は70年代キースの頂点とも言うべき作品で、ソロ・ピアノだけがキースの世界ではないことを示した。アナログ時代のB面が特に良く、今回はその部分を収録している。
60年代に入ってソニー・ロリンズはコルトレーンの陰に隠れがちだった。そんな時インパルスは、アレンジにも工夫を凝らした映画音楽『アルフィー』を出すことで、ロリンズ人気を回復させている。
インパルスはコルトレーン人脈を中心に吹き込みを行っているが、その代表選手がコルトレーン・カルテットのサイドマンを務めたマッコイ・タイナーだろう。『リーチング・フォース』は彼のトリオ・フォーマットでの傑作で、ダイナミックな彼の個性が100%発揮されている。今回は収録しなかったが、他にもアーチー・シェップをはじめ、コルトレーンの推薦によってインパルスからアルバムを出した若手前衛派は多く、そういう意味でもインパルスは60年代シーンの中心的存在であった。

【掲載アルバム】
ジョン・コルトレーン『アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード』(Impulse)
ソニー・ロリンズ『アルフィー』(Impulse)
キース・ジャレット『生と死の幻想』(Impulse)

火曜日 22:00~ 2時間番組

水曜日 22:00~

アート・ペッパー『ミーツ・ザ・リズム・セクション』(Contemporary)

「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」 第38回
『ジャズレーベル完全入門』~コンテンポラリー編(再放送)


コンテンポラリー・レーベルの特徴は、「サウンド」という言葉で言い表わすことが出来るだろう。まず、会社が西海岸のロスにあるので、1950年代当時隆盛を極めていたウエスト・コースト・ジャズ特有の軽快なサウンドを捉えているということ。そして、録音の音色という意味でもこの会社は独自性を持っている。
東海岸の代表的ジャズ・レーベル、ブルーノートの伝説的録音技師、ルディ・ヴァン・ゲルダーにも比肩される、ロイ・デュナンという名録音技師が録ったコンテンポラリー・サウンドは、独特の明快な軽やかさを持っている。つまりジャズ・スタイルのサウンドの特徴と、録音の音色の傾向が一致しているのだ。
最初の1枚は、名盤紹介に必ず出てくるアート・ペッパーの『ミーツ・ザ・リズム・セクション』から、おなじみの《ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ》。このアルバムは、録音のよさからオーディオファンが装置のチェックに使うことでも有名。そして次はこれも良く知られた名盤、ソニー・ロリンズの『ウエイ・アウト・ウエスト』。ブルーノート盤のゴリゴリした録音と比べてみると、同じ人が吹いているとは思えないほど明るく軽やかに聴こえるのがわかるだろう。
ウエスト・コースト・ジャズの職人アルト奏者、レニー・ニーハウスはちょっと馴染みが薄いかもしれないけれど、音楽監督として良くこの人の名が映画のクレジットに出てくる。有名なところでは、クリント・イーストウッド監督の映画『バード』で、チャーリー・パーカーの演奏をデジタル処理し、現代のミュージシャンと共演させるというアクロバット技を仕掛けたのがこの人だ。
第2次大戦後、進駐軍(占領軍のこと)として日本に来たこともあるハンプトン・ホースは、バド・パウエル直系のウエスト・コースト・ピアニスト。パウエル派ならではのノリの良いピアノには定評がある。
ジャズ雑誌の人気投票第1位、すなわちポール・ウイナーが3人集まった『ポール・ウイナーズ』は、バーニー・ケッセルのギターをレイ・ブラウンのベースとシェリー・マンのドラムが支えた、ウエストのスター・バンド。そのシェリー・マンがリーダーになったアルバム、『マイ・フェアー・レディ』は、ミュージカル・ナンバーをクラッシク畑でも活躍するピアニスト、アンドレ・プレヴィンに弾かせた名作。
コンテンポラリー・レーベルは80年代になっても活動し、オーソドックスなスタイルの傑作を残している。ロフト・シーンで知られたテナー奏者、チコ・フリーマンとウィントン・マルサリスの若手二人を、ベテラン、ヴァイヴ奏者、ボビー・ハッチャーソンが支えた『デスティニーズ・ダンス』は80年代の名盤だ。同じくウェザーリポートのドラマーとして知られたピーター・アースキンの初リーダー作『ピーター・アースキン』は、軽快なドラムソロのトラックに続く《E.S.P》が気持ちよい。ジョージ・ケイブルスのピアノは、現代的でありながら古きよき時代のフレイバーを感じさせるところが魅力だ。センチメンタルな味の《ブルー・ナイツ》は、なかなかの名曲。
再び50年代に戻り、知られざるベーシスト、カーティス・カウンスのリーダー作をご紹介しよう。フロントのトランペッター、ジャック・シェルドンの名前を知らずとも、聴けば納得の隠れ名盤だ。ベテラン、アルト奏者、ベニー・カーターの『スインギン・ザ・20s』は軽やかなアルトの音色が聴き所。これも録音の良さがカーターの魅力を引き出している。
そして最後は、70年代に吹き込まれたレイ・ブラウンの『サムシング・フォー・レスター』。ピアノ・トリオ・フォーマットでシダー・ウオルトンの演奏が光る。意外なことに、この編成でブラウンがリーダーになったのは初めてだとか。タイトルは、この録音の直後に心臓発作で亡くなってしまったコンテンポラリーのオーナー・プロデューサー、レスター・ケーニッヒに捧げたもの。

【掲載アルバム】
アート・ペッパー『ミーツ・ザ・リズム・セクション』(Contemporary)
ソニー・ロリンズ『ウエイ・アウト・ウエスト』(Contemporary)
『ポール・ウイナーズ』(Contemporary)

水曜日 22:00~ 2時間番組

木曜日 22:00~

ジャッキー・マクリーン『デモンズ・ダンス』(Blue Note)

「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」 第53回
ジャッキー・マクリーン特集 その3 「後期マクリーン」(再放送)


ジョン・コルトレーンの死からマイルス・デイヴィスのエレクトリック路線へと至る、ジャズが大きく方向を変えようとしていた60年代後半吹き込まれた『デモンズ・ダンス』(Blue Note)は、ブルーノート・レーベルへのマクリーン最後の吹込みであると同時に、この録音以後5年に及ぶ活動休止期を迎えるエポック・メーキングなアルバムだ。アナログ時代B面に収録された共演者ウディ・ショー作の《スィート・ラヴ・オブ・マイン》は、永遠の名曲だ。
1960年代後半、アメリカのジャズ状況はビートルズ出現に象徴されるロック・ミュージックの台頭によって、あまり芳しいものではなかった。多くのジャズクラブが閉鎖され、レコード会社はロックへと方向転換していった。そうした事情もあって、現場を離れもっぱら音楽教育活動に精を出していたマクリーンが演奏活動を再開したのは、デンマークの新興ジャズ・レーベル、スティープル・チェースへの吹込みがきっかけだった。
1972年、ジャズ研究家ニルス・ウインターがコペンハーゲンのジャズクラブでのマクリーンの演奏を個人的に録音したことが、スティープル・チェース・レコード誕生へとつながっていったのだ。73年録音の『ア・ゲットー・ララバイ』(Steeple Chase)はスティープル・チェースへの初期の吹き込みで、プレスティッジ時代を思わせるタイトル曲の哀感がたまらない。若干音質に問題があるが、これは設立したばかりのスティープル・チェースのライヴ録音技術が、まだ確立されていなかったため。
同じく70年代に録音された『ニューヨーク・コーリング』(Steeple Chase)は、マクリーンが息子のルネ・マクリーンと結成した新グループ「コスミック・ブラザーフッド」によるアルバムで、トランペット、テナーサックスを擁した3管セクステットによるダイナミックな演奏が小気味良い。息子と共演するマクリーンは元気いっぱいでいかにも楽しそう。ハードバップ時代とは一線を画した新しいマクリーンの誕生だ。
だいぶ時代は下るが、続いてもう1枚マクリーンが息子と共演したアルバムをご紹介しよう。88年録音の『ダイナスティ』(Triloka)はマクリーン57歳のアルバムだが、アルトの音色にまったく衰えはなく、むしろ力強さは増しているように聴こえる。さすが長年鍛え上げたテクニックはすごいものだ。もうこの時期のマクリーンは50年代60年代の哀愁路線とは縁を切り、オーソドックスなスタイルの中で新時代のジャズを展開している。
再び70年代に話を戻すと、70年代ハードバップ・リバイバルの流れに乗ったマクリーンは、かつての名盤『レフト・アローン』(Bethlehem)の再演をマル・ウオルドロンと行う。『ライク・オールド・タイム』(Victor)はいかにも日本制作といったアルバムだが、くすんだ哀感をたたえた《J.M.’s Mood》など、やはりマクリーン・ファンにはこたえられない味わいだ。
最後にご紹介する『マック・アタック』(Birdlogy)は、晩年になってもマクリーンはまったく衰えを見せず、アルトの音色などむしろパワー感を増しているところが聴き所。それにしても、最初からフルスロットルで吹きまくる《サイクリカル》など、ヘタな若手が束になってもかなわない迫力だ。60年代日本のジャズ喫茶で圧倒的人気を誇ったマクリーン節は、形を変え、90年代にも力強く息づいていたのだ。

【掲載アルバム】
ジャッキー・マクリーン『デモンズ・ダンス』(Blue Note)
ジャッキー・マクリーン『ニューヨーク・コーリング』(Steeple Chase)
ジャッキー・マクリーン『マック・アタック』(Birdlogy)

木曜日 22:00~ 2時間番組

金曜日 22:00~

ケニー・ドリュー『ケニー・ドリュー・トリオ』(Riverside)

「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」 第79回
「私の好きなジャズ」その5~ピアノ編(再放送)


ピアノジャズ、中でもピアノトリオは日本のファンにもっとも好まれるフォーマットだと言われていますが、その理由はわかるような気がします。私もジャズを聴き始めたばかりのころは、聴き慣れた楽器の音色でメロディラインが聴き取りやすく、しかもジャズならではスインギーなリズムが楽しめるピアノトリオが大好きでした。
そして、相当ジャズを聴きこんだベテランマニアも、たとえば「パウエル派」と呼ばれる、バド・パウエルの影響を強く受け、表面的には極めて似たピアニストたちの微妙な個性の違いを聴き分けて楽しんでいます。私などもその口で、ノリが良くいかにもジャズっぽい彼らの演奏が大好きです。
ケニー・ドリューは代表的なパウエル派ピアニストで、初期のアルバムには本当にパウエルそっくりな演奏がありますが、代表作である『ケニー・ドリュー・トリオ』(Riverside)は、彼ならでは個性が発揮された傑作です。聴き所は明るく快適なスイング感と、初めてジャズを聴く人でも楽しめる、わかりやすさでしょう。入門ファンに薦めて間違いの無い名盤です。
同じパウエル派でも、ソニー・クラークともなるとちょっとマニアっぽい雰囲気が漂ってきます。調律された楽器なのに、クラークが弾くと重心が下がって聴こえるのは、不思議なことです。その独特のピアノの音色が醸し出す、ダークな気分がいかにも黒っぽい。『ソニー・クラーク・トリオ』(Time)は彼のオリジナル曲を集めたアルバムで、それだけに彼の個性が十分に発揮された名演集です。重いタッチからくりだされるマイナーな曲想は一度聴いたら忘れられません。
「名盤の影にトミフラあり」などと言われたトミー・フラナガンは、ジョン・コルトレーンの『ジャイアント・ステップス』(ATL)やソニー・ロリンズの『サキソフォン・コロッサス』(Prestige)など、歴史的名盤と言われたアルバムに数多く参加しています。そういうところから「名脇役」と呼ばれるのですが、それは彼の柔軟な姿勢が評価されているからでしょう。
もちろんリーダー作でも素晴らしい作品があり、70年代後半にヘレン・メリルのプロデュースによって録音された『プレイズ・ザ・ミュージック・オブ・ハロルド・アーレン』(DIW)など、彼の思いのほかダイナミックな魅力が発揮された隠れ名盤と言って良いでしょう。
パウエル派で忘れてはいけないのがバリー・ハリスです。地味な存在ですが、一度彼の魅力に開眼すると、サイドマンに入っているアルバムまで探すことになってしまうこと請け合いです。『アット・ザ・ジャズ・ワークショップ』(Riverside)は、ライヴならではのくつろいだ雰囲気の中で、ハリスの快適な演奏が堪能できます。聴き所は名演《ロリータ》の出だしなど、微妙なタメを利かせた絶妙のリズムの乗り方で、この気持ちよさにはまるとなかなか抜け出せません。
パウエル派ばかりが続きましたが、もちろんほかのピアニストも大好きです。中でも一番の大物、ビル・エヴァンスは外せません。スコット・ラファロがサイドに参加している、いわゆるリヴァーサイド4部作はすべて愛聴盤ですが、日常的によく聴くのは『ワルツ・フォー・デビー』と同日録音の『サンディ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード』です。抑えの効いた叙情が素晴らしい。
ソロ・ピアノで一世を風靡したキース・ジャレットの作品はみな高いレベルを維持していますが、どちらかと言うと「甘さ控えめ」が『ステアケース』(ECM)の魅力ではないでしょうか。キースのソロ嫌いな方に一度聴いていただきたい名演だと思います。

【掲載アルバム】
ケニー・ドリュー『ケニー・ドリュー・トリオ』(Riverside)
トミー・フラナガン『プレイズ・ザ・ミュージック・オブ・ハロルド・アーレン』(DIW)
キース・ジャレット『ステアケース』(ECM)

金曜日 22:00~ 2時間番組

[Recommend!] 土・日曜日 22:00~

ジョエル・ロス『Nublues』 (Blue Note)

「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」 第231回
新譜紹介 第96回


現代ジャズの隆盛は急に起こったわけではなく、10年以上前から少しずつその萌芽がおこっていたことを教えてくれるアルバムが再発されました。天才少年と言われながら若くした亡くなったピアニスト、オースティン・ぺラルタによる2011年のアルバム『Endless Planets』 (Brainfeeder) は、現在の耳で聴いてもとても新鮮です。
マッコイ・タイナーを思わせると言われた切れ味の良いピアノが熱気に満ちたベン・ウェンデルらのサックスと絡み合い、それを支えるタブラのエキゾチックな響きが聴き手の耳をそばだてさせます。生きていたら間違いなく注目の新人として人気を集めたことでしょう。
ベテラン、サックス奏者、クリス・ポッターがブラッド・メルドー、ジョン・パティトゥイッチ、ブライアン・ブレイドといった現代ジャズの最前線に立つ腕っこきと組んだ最新作『Eagle’s Point』(Universal Music)でポッターは、バス・クラリネット、サックスを駆使し、気合に満ちた演奏を聴かせています。伝統的なワン・ホーン・カルテット編成が現代では著しく進化していることが実感されるアルバムですね。
伝統を踏まえたギター・プレイでファンの心をつかんだジュリアン・ラージが気鋭のプロデューサー、ジョー・ヘンリーと組んだ新作『Speak To Me』 (Blue Note)は、彼の新境地を切り開いた注目作です。
ベースのホルヘ・ローダー、ドラムスのディヴ・キングによる従来からのトリオにサックス奏者、レヴォン・ヘンリー、キーボード、パトリック・ウォレンが参加したこのアルバムでは、彼の持ち味である流麗なラインがダイナミックで力強いギター・サウンドによって新たな魅力を添えているのです。ラージの音楽的バック・グラウンドの幅広さを改めて実感させられました。
地味ながら地に足の着いた演奏が好感を呼ぶテナー奏者JDアレンの新作『This』 (Savant)を最初に聴いた時、かなり戸惑わされました。それはエレクトロ二クス・エフェクトの魔術師と呼ばれたアレックス・ボニーの参加によるところが大きいのですね。
従来アレンの音楽は個性的ではあってもごくオーソドックスなスタイルだったのですが、この作品では意表を突くエレクトリック・エフェクトがいやでも耳に着くのです。しかし何度か聴くうち、あえてアレンのフレーズに寄り添うことなく、意図的に異和感を醸し出すアレックスのサウンドが演奏に面白い効果を与えていることに気が付き始めました。そしてそれには、律儀にアレンに従うかなりアクの強いなグウィリム・ジョーンズのドラミングも一役買っているのです。一聴合っていないようで、この作品は現代ジャズが目指すサウンド志向の新たな地平を切り拓いているようにも思えるのですね。
対照的なのが、ジョエル・ロスによる『Nublues』 (Blue Note)です。おなじみのメンバー、アルト・サックスのイマニュエル・ウィルキンスが加わった演奏は、ごく正統的なジャズ・スタイルでジャズ最前線の成果を聴かせてくれます。それにしても、ロスのヴァイヴ・サウンドとウィルキンスのアルトの絡みは絶妙。各々のソロの力と二人が醸し出すサウンドの魅力が音楽的効果を高めているのですね。
最後にお送りするのはニューヨーク・シーンで活躍するピノ・トリオ「イエス・トリオ!」による『Spring Sings』 (Jazz & People)です。このグループはイスラエル出身のベーシスト、オメル・アヴィタルにドラムスのアリ・ジャクソン、そしてピアノはアーロン・ゴールドバーグで、聴きどころは何といってもチームワークの良さからくる快適なグルーヴ感です。現代ジャズの大きな特徴として、メンバー相互が醸し出す上質のグルーヴ感覚を挙げることが出来ますが、このアルバムなどが良い例でしょう。

【掲載アルバム】
ジュリアン・ラージ『Speak To Me』 (Blue Note)
ジョエル・ロス『Nublues』 (Blue Note)
JDアレン『This』 (Savant)

土・日曜日 22:00~ 2時間番組

インフォメーション

ジャズ喫茶リアル・ヒストリー/後藤雅洋
発売中/河出書房新社/ISBN 978-4-309-27067-8

ジャズ喫茶リアル・ヒストリー/後藤雅洋
発売中/河出書房新社/ISBN 978-4-309-27067-8

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